ロシア極東森林地帯における文化の環境適応(2009-2012)
目的・内容
本研究は、極東ロシア南部の冷温帯及び亜寒帯森林地帯に暮らす人々の文化の特性を環境適応という観点から明らかにすることを目的としている。しかも、その適応すべき環境には、自然環境だけでなく、政治経済的な要因によって歴史的に形成される人為な環境(「歴史的環境」と名付けておく)をも含めることにする。研究対象は森林地帯で伝統的な狩猟、漁撈、トナカイ飼育を行う先住民族だけでなく、森を切り開き、農地や木材伐採を行うロシア系移民も含める。伝統的な生産形態と現代的な開発経済が併存する現実を、自然環境と歴史的環境という視点から観察し、環境適応に関する基礎的なデータを集めるとともに、両者の共存による地域経済の活性化と環境保存とを両立させる方策を考える。
活動内容
2012年度実施計画
今年度は最終年度であるため、研究成果のとりまとめとその公開に向けた作業を中心に行い、必要に応じて補足的な調査を行う。
まず、これまでの3年間と今年度実施する補足調査の成果をまとめて、国際シンポジウムという形での公開を予定している。2013年2月にロシアウラジオストークにある連邦極東大学と極東諸民族歴史学考古学民族学博物館の協力を得て、ウラジオストークにて開催予定である。そのための準備のために、2012年5月に研究代表者がウラジオストークを訪ねて、事前の打ち合わせを行い、また、秋11月には国内の研究者を集めた予備の研究会を実施する。
補足調査に関しては、それまでの3年間の調査を経て改めて必要となったデータを収集するため、8月下旬に中国黒竜江省で2週間にわたる調査と、ロシアハバロフスク地方ソルネチュヌィ地区のロシア人旧教徒の開発村落でやはり2週間にわたる調査を行う。中国調査は昨年度に行った予備的な調査を受けたものであり、ロシアの状況との比較という視点からデータを補足する。旧教徒の開拓村落は一昨年度の調査の補足である。さらに、昨年度実施した冬の狩猟調査のデータを充実させるために、今年度は狩猟時期としては最適とされる12月上旬にロシアハバロフスク地区のコンドン村とウリカ・ナツィオナリノエ村にて行って、調査を終了させる予定である。
2012年2月実施予定のシンポジウムでは、これまでの調査のデータを相互に参照し合うとともに、そこから得られた知見を合わせて、極東ロシアにおける自然環境、歴史的環境と、文化との相互作用に関する理論的なモデルの構築を目指す。
2011年度活動報告
ロシア極東森林地帯における文化の環境適応の調査研究として、3年度目の平成23年には、以下の4種類の調査を実施した。
- アムール水系の先住民族村落(ウリカ・ナツィオナーリノエとコンドン)におけるソ連時代の農業開発の痕跡の調査。具体的には、1960年代から70年代に撮影された衛星写真を入手し、そこに写されている農場があった場所を実際に訪れ、そこ画と現在どのようになっているのかを確認するとともに、その農場で働いた経験のある人からインタビューを取り、当時どのような作物がどのように生産されていたのか、なぜ、どのようにしてその農場が放棄され、現在のような状況(荒れ地あるいは森に戻っている)になっていったのかを確認した。
- ロシア沿海地方で、金(11?12世紀)、東夏(13世紀)、パクロフカ文化期(11-12世紀)の遺跡の立地条件の調査を行った。
- 同じ自然環境,生態系を持ちながら、全く異なる歴史を歩んだ、アムール水系の中国側の先住民族(赫哲族、ロシアのナーナイと同じ民族)の集落を訪れ、その周囲の生態系、集落の立地条件、そして生業形態に関する聞き取り調査を行った。調査地は街津口と四排。
- アムール水系の先住民村落における冬の狩猟調査。場所はウリカ・ナツィオナーリノエとコンドン
これらの調査により、1)に関しては、すでにソ連時代末期には先住民集落周辺における大規模農場の衰退が始まっており、それは自然環境というよりは、経済、社会的な条件の変化によるものだったことが判明した。2)に関しては極東ロシアの自然村落の立地条件を確認できた。3)は同じ自然環境にあり、100年前までは同じ文化を持っていた人々が、その政治経済的な環境の相違によって文化の外形が大きく変わることが確認できた。3)の調査ではこの2つの村落の生業に関する基礎データを得ることができた。
2010年度活動報告
本年度は、1)ロシア連邦ハバロフスク地方のウリカ・ナツィオナーリノエ村とコンドン村で、先住民族ナーナイの食文化に関する調査と映像撮影、2)ロシア連邦ハバロフスク地方と沿海地方でツングースカ川、ビキン川、イマン川流域の考古遺跡の立地条件の調査、そして、3)アメリカ合衆国アラスカ州に移住したロシア正教の分離派教徒が入植、開拓した村落の調査の計3件の実地調査と、1回の研究集会を実施した。1)の先住民族の食文化の調査では、ナーナイの人々が食材である魚を捕る漁のポイントと漁法、肉を得るための猟のポイントと猟法、さらに植物性の食材を採集する場所を調査し、それらの食材の調理するための方法を映像記録に撮った。2)では新石器時代から中世、近代直前までの遺跡の立地条件の相違を中心に竪穴住居址、城郭址などを調査した。3)では極東ロシアや中国東北地方から移住してきた経緯とアメリカに移住する前後での生活の異同を調査した。研究会では調査報告とともに、衛星写真を使った調査地域の土地利用形態の変遷史解明の可能性について議論された。
極東ロシアでは、時代の相違や先住民系か移民系かの相違を越えて、狩猟と漁業と植物採集が、農耕や家畜飼育と比べても、食料生産全体の中で一定の重要性を占めており、居住形態もそれに合致したものとなっていることがわかってきている。今後は環境と時代状況がそれらにどのように反映しているのかに着目しながら、調査と分析を続けていきたい。
2009年度活動報告
本年度は、ロシア連邦ハバロフスク地方に3つの研究グループを派遣し、イルクーツク州へ1グループ、そして沿海地方にもう1グループ派遣した。ハバロフスク地方では、8月に先住民族ナーナイの集落ウリカ・ナツィオナリノエに連携研究者とロシア側研究協力者計5名を派遣し、人々の基本的な生業パターンと生業暦に関する情報を聞き取りと実際の狩猟漁業活動の観察から収集し、合わせてかつてナーナイが村を作っていた旧集落の地点の地形、立地条件等を観察した。また9月にロシア系開拓村のベレゾヴォ村に連携研究者と研究協力者計2名を派遣して、開拓民の生業暦と生産活動、儀礼活動に関するデータを収集した。同時にイルクーツク州に派遣した連携研究者は同地域のトナカイ飼育と狩猟に関する基礎データの収集を行った。さらに10月にハバロフスク地方のナーナイの別の村であるコンドン村に連携研究者と研究協力者の計4名を派遣し、同村周辺の旧集落の位置の確認と立地条件に関するデータを収集した。そして11月に研究協力者を1名沿海地方南部に派遣し、同地方における森林開発に関する聞き取り調査を実施した。
以上の調査の結果、ロシア極東南部の森林地帯における生業活動、あるいは生産活動の年間サイクルや組み合わせ方など基本的な情報と、集落の立地条件に関する基礎的な知見を得ることができた。次年度(平成22年度)には、生産活動や経済活動のより具体的で、細かいデータをそろえて、ロシア極東地域の森林地帯における環境利用に関する地理的、歴史的条件に基づく地域間の差異と、関係性について、もっと詳しく考察する予定である。







