国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

青年海外協力隊員の活動における文化人類学の活用に関する研究(2009-2011)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 白川千尋

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究では、カンボジア、ベトナム、ラオスで実施されている日本の青年海外協力隊事業を対象とし、同事業における文化人類学(ないしはその視点、方法論、考え方などに関する知識)の活用のあり方を検討することによって、地域社会に密着した国際協力活動における文化人類学の役割と課題を明らかにするとともに、国際協力と文化人類学の関係に関する新たな展望を得ることを目的とする。青年海外協力隊事業のもとで派遣される隊員たちは、教育文化、土木建築、農林水産、保健衛生など多岐にわたる分野の活動に従事しているが、本研究で主たる対象とするのは、保健衛生に関連する活動を行っている隊員(あるいはかつて行っていた元隊員)で、とくに近年増加傾向にある特定の医療資格(医師、看護師、助産師、臨床検査技師など)をもたない者である。

活動内容

2011年度活動報告

本研究の最終年度である本年度に行う活動として当初予定していた活動は、大別して(1)国外調査、(2)国内調査、(3)調査で得た知見の集約と検討および研究成果の公開に関する活動、の三つであった。(1)については、本研究の初年度と次年度で当初の研究対象国であるカンボジア、ベトナム、ラオスでの調査を終えることができたため、調査で得た情報を比較検討し、より一般的なコンテクストの下に位置づけるべく、上記3カ国に近く、同じアジア大陸部に位置し、派遣されている青年海外協力隊員の人数も多いバングラデシュにおいて、研究代表者が隊員とその関係者を対象とした聞き取り調査を行った。(2)については、前年度に引き続き、研究代表者と研究協力者(大橋亜由美・放送大学非常勤講師)が分担して、帰国した元隊員を対象とした聞き取り調査を行った。また、研究代表者が、派遣前の隊員を対象とした研修の参与観察と、研修の講師に対する聞き取り調査を行った。以上の国内外での一連の調査によって、隊員の活動における文化人類学的知見(文化人類学の視点、方法論、考え方などに関する知識)の活用のあり方に関する実際的な情報を、当初の目標どおりに収集することができた。加えて、研修に関する調査を通じて、研修で文化人類学的知見が隊員にどのように教示されているかという点についても十分な情報を得ることができ、さらにその情報と、活動中の隊員を対象とした国外調査や元隊員を対象とした国内調査によって得た情報をつきあわせることで、研修で教示された文化人類学的知見が隊員の活動のなかでどのように活用されたか(あるいはされなかったか)という点についても把握することができた。(3)については、前年度と同じく、年度後半に研究代表者と研究協力者が、ミーティングやメールなどを介してそれぞれの収集した情報の共有をはかった。一方、研究成果の公開に関する活動としては、たとえば、研究代表者が11月5日にオーガナイズした国立民族学博物館機関研究プロジェクト「支援の人類学」国際シンポジウム「グローバル支援の時代におけるボランタリズム-東南アジアの現場から考える」での基調報告などがあり、それらの場を通じて本研究で得た知見の一部をおおやけにした。

2010年度活動報告

平成22年度に行う活動として当初予定していた活動(交付申請書記載)は、大別すると(1)カンボジア、ラオス、ベトナムにおける派遣中の青年海外協力隊員を対象とした国外調査、(2)帰国した元隊員、派遣前研修を受けている隊員、派遣前研修で文化人類学関係の講義やワークショップを担当している講師などを対象とした国内調査、(3)調査で得た知見の集約と検討に関する活動、の三つであった。このうち(1)については、研究代表者がカンボジアとベトナムにおいて隊員とその関係者(協力隊調整員や国際協力機構専門家など)を対象とした聞き取り調査を行った。また、(2)については、研究代表者と研究協力者(大橋亜由美、放送大学非常勤講師)が分担して、帰国した元隊員を対象とした聞き取り調査を行った。これら国内外での調査によって、隊員の活動における文化人類学的知見(文化人類学の視点、方法論、考え方などに関する知識)の活用のあり方に関する実際的な情報の収集が進んだ。加えて、平成21年度に引き続き、研究代表者が派遣前研修の参与観察と研修の講師に対する聞き取り調査を行った。派遣前研修を対象としたこれらの調査により、研修で文化人類学的知見が隊員たちにどのように伝えられているかを詳細に把握することができた。さらに、それと先述の国外調査や元隊員を対象とした国内調査によって得られた情報をつきあわせることで、研修で伝えられた文化人類学的知見が、その後隊員たちの活動のなかでどのように活用されたか(あるいはされなかったか)という点についてもフォローすることが可能となった。なお、(3)については、年度後半に研究代表者と研究協力者がミーティングやメールのやりとりなどを行い、(1)と(2)の活動を通じてそれぞれの得た情報の共有に努めた。 

2009年度活動報告

平成21年度に行う活動として当初予定していた活動(交付申請書記載)は、大別すると(1)カンボジア、ラオス、ベトナムにおける派遣中の青年海外協力隊員を対象とした国外調査、(2)帰国した元隊員、派遣前研修を受けている隊員、派遣前研修で文化人類学関係の講義やワークショップを担当している講師を対象とした国内調査、(3)調査で得た知見の集約と検討に関する活動、の三つであった。このうち(1)については、研究協力者(大橋亜由美、放送大学非常勤講師)がラオスにおいて隊員とその活動の関係者(協力隊調整員や国際協力機構短期専門家など)を対象とした聞き取り調査を行い、派遣中の隊員の活動における文化人類学的知見(文化人類学の視点、方法論、考え方などに関する知識)の活用状況などの具体的な把握に努めた。これに対して、研究代表者は、ほかの業務との時間的な関係上、国外調査を行うことができなかったが、代わりに(2)の国内調査に重点的に携わった。そうした調査活動のなかでとりわけ重要であったのは、派遣前の隊員に対して行われる研修の参与観察である。文化人類学者がオーガナイザーならびに講師を務めていることもあり、研修では文化人類学の知見がきわめて豊富に提示されている。こうした研修を実際に参与観察できたことは、派遣を控えた隊員に文化人類学的知見がどのような形で伝えられているのかを詳細に把握することができたという点で、非常に有意義であった。以上に加えて、研究代表者と研究協力者はそれぞれ、帰国した元隊員や派遣前研修の講師などに対する聞き取り調査も行った。なお、(3)については、年度後半に研究代表者と研究協力者が2回ほどミーティングを行い、(1)と(2)の活動を通じてそれぞれの得た知見の共有に努めた。