国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

マダガスカルにおける森林資源と文化の持続―民族樹木学を起点とした地域研究(2010-2012)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 飯田卓

研究プロジェクト一覧

目的・内容

生物多様性のホットスポットと目されながら脱森林化が著しいマダガスカルにおいて、森林資源と「生活の知恵」を保全継承するため、村落生活者による木材資源利用を調査し、その過程で森林行政と文化行政の連携も試みながら、成果を効果的に役立てるための研究交流をおこなう。現地調査においては、2つの方法を主として用いる。(1)樹種ごとの生育状況やその経年変化を把握するため、森林内に多数の調査区を設置する森林生態学的手法(多点プロット調査法)と、(2)樹種・樹齢ごとの利用法や利用頻度、その経年変化を把握するため、木材標本を見せながら聞き込みをおこなう社会学的調査法(エリシテーション調査法)である。両者の結果は、木材サンプルの材質分析の結果などと総合し、特定の樹種・樹齢に偏った木材利用を分散させるための提言に反映させる。

活動内容

2012年度活動報告

7月から9月にかけての2ヶ月間、飯田、吉田、伊達および研究協力者3名が交替しながら調査地を訪れ、現地調査をおこなった。とくに、前年度に予定していながら実行できなかった森林生態学的調査を集中的におこなった。研究協力者3名のうち1名は、前年度経費から今年度に繰り越した分の経費によって現地調査を遂行した。
調査は実り多いもので、これまで調査地近辺での分布が確認されていなかったヤシ科植物が確認された(もしくは新種の可能性もある)ほか、6ヶ所120平方メートルの調査区に100種あまりの樹木種を確認するなど、当初予想されていた以上に森林生態系の多様度が高いことが明らかとなった。いずれの成果も分析途上であり、発表にむけて準備をしている。
また、調査区において葉と材のサンプリングをおこない、材の機能特性を推定するための資料を得た。また、建材や家具材として用いる樹種40種あまりに関しては、木材サンプリングをおこなってじっさいに材の機能特性を測定した。これらの結果は分析中だが、どのような機能特性の材がどのような用途に用いられており、特定の樹種が減少した場合にはどのような樹種が代替となり得るかを分析していく予定である。
このほか、2013年3月に代表者が所属する国立民族学博物館で、調査地のくらしに関する展示会を開催した。これに関連して、家屋建設のようすや家財所有状況の記録もおこなったので、今後この資料も分析し、これまでに得られた資料とつき合わせて考察を深める予定である。

2011年度活動報告

8月から9月にかけての1ヶ月あまり、飯田、吉田、伊達および研究協力者2名が交替しながら調査地を訪れ、現地調査をおこなった。研究協力者の事情により、森林サイドでの生態学的調査は十全におこなえなかったが、村落サイドでは3世帯において家財の悉皆調査をおこない、とくに木製品に関しては製作者や製作年代などについての聞き込みもおこなった。また、木造家屋の建材として用いられている部材の名称や適した樹種、じっさいに用いられている樹種などについて、すべての家屋で聞き込みをおこなった。また、木造家屋の建築手順についても聞き込みをおこなった。
これらの結果は分析中だが、木製の家具が予想よりも少ないことが明らかになっている。つまり、材積に換算すると、家具材よりもはるかに多くの建材が村内に持ちこまれていることが明らかになった。いっぽうで、木造家屋の新築は近年少なくなっており、全体的に村落空間に蓄積される木材量が減少しているといえる。原因としては、木材価格および大工人件費の高騰と、森林保護政策による伐採のための出稼ぎの減少の両方が考えられる。このことは、森林資源の保護にとってはよいことかもしれないが、森林資源を活用した文化が先細っていると捉えることもできる。
9月には、調査国首都のアンタナナリヴ氏において、日本側研究者5名とマダガスカル側研究者2名で集まり、研究の進捗状況について報告会をおこなった。
なお、平成23年度の森林調査が予定どおりおこなえなかったため、平成24年度に入ってから研究協力者1名を派遣して森林調査をおこなった。

2010年度活動報告

6月と11月の2回にわたって、海外共同研究者をまじえた研究打ち合わせを京都でおこなった。いずれの回も全員がそろうことはできなかったが、マダガスカルでも複数のメンバーで会合をもち、補足的な話しあいをした。これらの会合により、メンバー全員が研究目的を共有して、それぞれの調査活動の準備を進めた。また、国立民族学博物館とアンタナナリヴ大学とのあいだで研究協定を締結し、科研メンバーの範囲を越えでた成果共有ネットワークの構築に着手した。これにあわせ、マダガスカルの文化行政関係者や、生物学関係の研究機関にもコンタクトをとった。
現地調査においては、アムルニ・マニア県アントエチャ郡フェンプナ村および近辺の森を、主たる調査村に定めた。この村は、木造建築が比較的多く残っており、村落管理の森林にも近い。このため、多点プロット調査法による森林生態学的調査と、エリシテーション調査法による社会学的調査を、それぞれ、次年度以降にこの場所で集中的に展開していくこととした。また、必要に応じて、他の村でも、共同研究者の関心にあわせた調査をおこなう。
出版や研究発表のかたちの成果としては、飯田と内堀、吉田がそれぞれ、これまでの調査経験をふまえた出版や研究発表をおこなった。せまい意味での現地調査の結果を反映しているわけではないが、次年度以降の調査において個人テーマを展開させる準備を整えたという意味で、今年度の研究を反映している。