国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。
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都市を生きぬくための狡知(2010)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|研究成果公開促進費(学術図書) 代表者 小川さやか

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本書刊行の目的は、タンザニア都市商人の事例から、社会の周縁部に位置する者が、いかにして不可逆的なグローバル資本主義システムに適応しながら独自の生活世界を創りあげていくのか、またいかにして互いの自立性や多様性を尊重しながら、互いの生を保障しあう豊かな共同性を築くことができるのか、という極めて現代的なテーマに取り組むことにある。また本書は、都市の著しい流動性・異種混淆性・匿名性の諸相そのものを反映したアフリカ都市零細商人の実践世界を「狡知」を切り口に描き出した貴重な民族誌でもある。
本書は、序章と終章にはさまれた・部構成となっている。序章では、本書にかかわる先行研究としてモラル・エコノミー論、共同体論、日常的抵抗論を整理し、「狡知」に着目する意義を論じる。第・部では、零細商人たちの「騙しあうことで助け合う」商慣行のしくみと共同性を明らかにする。第・部では、タンザニア独立前後から現在に至るまでの社会経済政治状況の変化のなかで、零細商人たちが政府・行政による弾圧に対抗しながら仲間意識を醸成し、多様な商慣行を生みだしていくダイナミズムを明らかにする。第・部では、従来、国家とインフォーマルセクターとの緊張関係から分析されてきた路上商人による暴動・日常実践を、路上空間を舞台に重層的に築かれている諸関係の推移のなかで捉えなおし、日常的な抵抗実践から暴動へと至る過程と路上空間の自生的な社会経済秩序の動態との連続性を明らかにする。これらを総合して本書は、都市世界の不確実性や異質な他者の他者性、自己の負の過剰性それ自体をともに生き抜くための資源へと転換していくことで、互いの生を保障しあう豊かな実践世界を提示する。