国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

21世紀の市民運動に関する文化人類学的研究――ベルリン外国人集住地区の事例(2010-2013)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 森明子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、19世紀以来西欧を中心として近代世界を構成してきた社会原理が、見直しを迫られているという認識のもとに、新しい社会像を構築しようとする試みとしてボトムアップの市民運動を研究するものである。とくに外国人が集住する地区の都市再生プロジェクトに焦点をあてて、市民団体、移民、行政、運動家らがいかに市民運動を展開していくのか、そのプロセスを明らかにする。この分析を通して、21世紀の新しい社会像を提言することをめざす。

活動内容

2013年度活動報告

本研究は、19世紀以来西欧を中心として近代世界を構成してきた社会原理が見直しを迫られているという認識のもとに、市民運動を新しい社会像を探るボトムアップの試みとしてとらえて、これを研究するものである。ベルリンの外国人が集住する地区においてすすめられている都市再生プロジェクトと、そこで展開している市民団体、移民、行政、運動家らの織り成す動きに焦点をあてて、その展開のプロセスを明らかにする。
平成25年度は、研究の最終年度として、これまで収集した資料と分析結果を総合し、そこからあぶりだされた重要な問題点についての補足的な調査をおこなった。
これまでの研究から、調査地においては、1960年代から展開した「新しい社会運動」の系譜と、1980年代初頭に劇的な高まりを見せた都市運動が、直接的な契機として絡み合いながら、現代にいたる市民運動が展開してきており、その背景に、冷戦と壁崩壊後の世界秩序の転回が磁力のように影響を及ぼしていることが明らかになった。東西冷戦の分断都市から再統合都市へ変容をとげたベルリンにおいて、外国人の位置づけも大きく変化した。単身の募集労働者から家族生活を営む市民へと転身をはかりながら、彼らは、世界政治の中での出身国との関係の再構成、行政の諸政策への対応、さらに移民自身の世代交代とともにあらわれてきた高齢化やアイデンティティをめぐる問題などに直面しており、このような外国人の存在が、現代の市民運動に影響を及ぼしている。本研究では、都市に生きる外国人の存在にも考慮して、現代都市の市民運動について、とくに多様なアクターが行政や種々のアソシエーションといかに交渉し重なり合いながら行動しているか、ということに焦点をおいて記述・検討し、現地の研究者および市民運動の当事者と意見交換を行った。また、最終年度として補足的な現地調査を行い、アーカイブ資料の収集もおこなった。

2012年度活動報告

本研究は、19世紀以来西欧を中心として近代世界を構成してきた社会原理が見直しを迫られているという認識から出発し、ベルリンの街区で都市再生プロジェクトがいかに展開しているのか明らかにしようとするものである。対象とするのは、外国人が集住するベルリンの街区で、都市再生プロジェクトに多様なエージェントが関わっていることに注目している。
平成24年度は11月から12月にかけて20日間の現地調査を行った。昨年度にひきつづき当地で展開した都市再生プロジェクトと市民の関わりについて、その過程をあとづける資料を収集した。とくにキンダーラーデン運動に焦点をあてて、その複数の関係者に詳細なインタビュー調査を行った。
キンダーラーデンとは、小規模の託児所/保育所機能をもつ装置で、地域住民の隣人関係、社会関係をいかに構築するかという問題とも密接に結びつき、都市再生プロジェクトとも直接に連続している。本研究はキンダーラーデンを運動としてとらえて、市民運動や都市再生プロジェクトの一環として検討する視点を打ち出し、冷戦時代から冷戦後にかけて、ベルリンの社会編成のあり方がどのように展開しているかを明らかにしようとしている。本年度の調査では、キンダーラーデンを実際に企画・運営している個人へのインタビューの対象を拡大するとともに、内容も深化させて行った。キンダーラーデンという実践が、運営主体によって、ひじょうに多様であり、問題意識や運営方針も異なることを具体的に明らかに示すデータを収集した。また、現地調査に先立って、6月に開催された日本文化人類学会において、昨年度までの調査をもとに分析した結果を、中間段階での研究成果として口頭発表した。

2011年度活動報告

本研究は、19世紀以来西欧を中心として近代世界を構成してきた社会原理が見直しを迫られているという認識から出発し、ベルリンの街区で都市再生プロジェクトがいかに展開しているのか明らかにしようとするものである。対象とするのは、外国人が集住するベルリンの街区で、都市再生プロジェクトに多様なエージェントが関わっていることに注目している。
平成23年度は9月から10月にかけて1カ月間の現地調査を行った。昨年度にひきつづき当地で展開した都市再生プロジェクトと市民の関わりについて、その過程をあとづける資料を収集した。とくに平成23年度は、キンダーラーデン運動に焦点をあてて、その複数の関係者に詳細なインタビュー調査を行った。
キンダーラーデンとは、小規模の託児所/保育所機能をもつ装置である。多くは集合住宅の1階にある使われなくなった店舗スペースを利用する。運営主体は、両親と子供と教育者の三者である。キンダーラーデンは70年代の政治運動に起源をもち、冷戦時代のベルリンで80年代にかけて発展し、都市行政において一定の位置を占めるにいたった。しかし東西ドイツ再統一後の政治的経済的状況のなかで、その行政における位置づけは変化しており、キンダーラーデンを運営してきた人々や子供をもつ両親による新たな模索が起こっている。現代のキンダーラーデンには、移民家族のための育児サービスという問題が関わり、また移民とホスト社会の子供をあわせた多文化教育という課題も関わっている。それは地域住民の隣人関係、社会関係をいかに構築するかという問題であり、都市再生プロジェクトとも直接に連続する。
本研究はキンダーラーデンを運動としてとらえて、市民運動や都市再生プロジェクトの一環として検討する視点を打ち出している。これによって、冷戦時代から冷戦後のベルリンの社会編成を明らかにしようとする。

2010年度活動報告

本研究は、19世紀以来西欧を中心として近代世界を構成してきた社会原理が、見直しを迫られているという認識のもとに、外国人が集住するベルリンのある地区の都市再生プロジェクトに焦点をあて、市民団体、移民、行政、運動家らがいかに市民運動を展開しているのか、そのプロセスを明らかにしようとするものである。平成22年度は、以下のような研究実績をあげた。
1.ベルリンにおける市民運動および都市再生プロジェクトに関する調査;8月から9月にかけて1カ月間の現地調査を行い、1970年代から80年代にかけて行われた市民運動と都市再生プロジェクトの歴史的な展開をあとづけるとともに、現在においてそれがどのように受け継がれているかについて調査した。そのなかのいくつかのプロジェクトについては、関係者にインタビュー調査もおこなった。
2.国際ワークショップにおける意見交換;1月に、国立民族学博物館でヨーロッパ人類学に関する国際ワークショップ(ヨーロッパ人類学の地平)を開催し、内外の研究者とともに、近代ヨーロッパのソシアルなる概念を検討した。ワークショップの経費の一部は、本科研から支出し、本科研の研究成果も議論にのせて意見交換した。
ベルリンにおける調査では、現代の都市再生プロジェクトが、行政と地域住民、民間セクターの協力関係のもとに、地区の学校、商店街や移民アソシエーション、会社等、多様な団体を組み込んで展開していることが明らかになった。また、市民運動のひとつの系譜として保育園運動が注目されること、さらに今日の新たな展開として多文化教育を担う保育園の動きがあることが明らかになった。これらは本研究のテーマに関して、さらに深く検討する余地があり、23年度以降の調査でも、焦点のひとつに加えていく見通しができた。また、国際ワークショップを介して、ヨーロッパと日本の研究者ネットワークを格段に拡大することができた。