グローバル化時代の国籍とパスポートに関する文化人類学的研究 (2010-2013)
目的・内容
本研究「グローバル化時代の国籍とパスポートに関する文化人類学的研究」は、国籍やパスポートに注目することを通し(1)こうした国家の制度が人々の行動や意識に与えた影響を明らかにするとともに、(2)人々にとって国籍やパスポートがどのような意味を持っているのかを考察する。特に、(3)一国家の枠組みのみでは捉えきれない人びと―重国籍者や無国籍者-が所有するパスポートから、国家間のズレや歪みを浮き彫りにし、現代社会における人間の安全保障を究明する。本研究は実際のパスポートを収集・比較検討することを通し、以上の目的を解明しようと考えており、こうした研究はこれまでなされておらず独創性にとみ、新たな知見を発見することが期待される。
活動内容
2012年度実施計画
本研究に関連する先行研究の整理を引き続き行い、人類学的見地から分析を行う。また、これまでに収集してきた、パスポートや旅券、各種身分証明書の写真の整理を行い、今後、展示などで公開できるよう基盤作り、準備作業を行う。
フィールド調査としては、主に、アメリカ国籍と日本国籍を有する家族に焦点をあて、こどもの教育問題、就学問題、言語習得、アイデンティティ形成、そしてそれが就職や結婚にどのような影響を与えているのかなどについて、インタビュー調査を実施する。具体的には、8月に3週間ほどアメリカにおいて調査を行う予定である。
また、香港の中国への変換後、パスポート、旅券、身分証明書にどのような変遷があり、人びとの生活にどのような影響があったのかなどについて、情報収集を行う予定である。これについても、7月、12月に調査を実施するべく計画を立てている。
日本でのフィールドワークは、これまでに引き続き無国籍者のインタビュー調査、そして無国籍者の支援NGOでの参与観察を行う。今年の7月に導入される「在留カード」にともなって、無国籍者、なかでも特に在留資格のない人びとにどのような影響があったのかについて情報収集・分析を行う。
また、これまで、行ってきた中華学校などインターナショナルスクールでの重国籍の子供たちの調査を引き続き行う。今年は彼らの教育、進路、アイデンティティなどに注目し、また親の国籍についての考えなどについても分析を行う。
今年は、これまで行った調査の中間報告として国内外の学会において発表することも計画している。具体的には、移民政策学会において「在留カード」と無国籍者をテーマにしたミニシンポを組織する予定である。また、アメリカ人類学会において、日本とアメリカの重国籍を有するこどものアイデンティティのハイブリディティについて報告を行うことを計画している。また、難民や無国籍のこどもたちの国籍問題に関連したワークショップを開催することも計画している。
研究成果の公開として、無国籍者について開催したシンポジウムの報告書の編集を引き続き行い、今年度中に出版できるよう努める。
2011年度活動報告
本年度は、
- アメリカに在住する複数国籍の子どもたちについてフィールド調査を行った。主には日本人との国際結婚家族から生まれる子どもたちに焦点を当て、ロサンゼルスにある保育施設「こどもの家」において参与観察とインタビュー調査を行った。一方の親が日本人であり、子どもの日本国籍を留保していることから、複数国籍である子どもたちがほとんどである。生活はアメリカを基盤にするが、日本国籍を有することで医療や子ども手当てなど、できる限り既得権益を確保しようと考えていることが明らかとなった。
- イスラエルとシリアの国境地帯であるゴラン高原を訪問し、現地に暮らす無国籍者の人びとやゴラン高原のNGO組織(Golan For Development 、Al Masadoなど)を訪問し、インタビュー調査を行った。現地の人びとは占領国イスラエルの国籍を取得することを拒んでおり無国籍である。無国籍のまま、彼らがどのように生活し、また、シリア側にわたった場合、家族とどのように連絡を取っているのかなどについてフィールド調査を行った。
- これまで集めてきたパスポートや身分証明書を一部整理し、編著書『越境とアイデンティフィケーション:国籍・パスポート・IDカード』を新曜社より出版した。また、文庫本『無国籍』を新潮社から出版した。
- 国連難民高等弁務官事務所との協力でシンポジウム『無国籍者の今、求められる日本の対応―国連無国籍削減条約50周年を迎えて』を開催した。また、タイのタマサート大学との協力で、日本とタイの無国籍問題の比較研究シンポジウムを開催した。
グローバル化する中で、国籍の意味が激しく揺れ動いていることがわかる。複数国籍や無国籍者から表出する疑問や問題点から、現代社会における国籍の意味についてさらに考察を深めてゆきたい。
2010年度活動報告
本年度は、
- 日本に在住するタイ出身のベトナム系無国籍者やロヒンギャなどにインタビューを行った。無国籍者の問題は、一カ国だけでは解決できない問題であるため、タイのNGO支援団体などと連携を組み研究を行った。また、国連難民高等弁務官事務所や、無国籍ネットワークなどの市民団体などとも協働し調査を行った。その結果、タイからの支援者・研究者を招き、2月には国立民族学博物館において、「世界の現場における無国籍者の人権と支援-日本の課題」に関する国際シンポジウムを開催した。
- 無国籍者の研究を通して、日本と韓国の華僑に無国籍者が多発した時期があったことが明らかとなった、その成果の一部を韓国の学会において発表した。
- 複数国籍者に関しては、横浜中華学校などでインタビュー調査を行い、生徒の統計などを入手した。また、その成果の一部を華僑華人研究会のシンポジウムにおいて発表した。
- タイやアメリカ、そして日本で行ったフィールド調査を通して、パスポートをはじめとする身分証明書類を入手した。無国籍者や複数国籍者にとって、移動の際に、いかに使われているのかについて分析をすすめていくことは、現代社会における人間の安全保障を考える上でも重要であると、研究を通して再確認した。







