国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

オセアニアの紛争に関する文化人類学的研究:フィジー諸島共和国の事例から(2010-2012)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 丹羽典生

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、近年増大している第三世界の紛争の特質の一端を、オセアニアのフィジー諸島共和国を事例に解明することを目的としている。オセアニアにおいては、植民地時代の政治闘争以降の政治的に安定した時期を経て独立をはさみ、1990年代後半以降、暴動から民族紛争、クーデターまでさまざまな政治的問題が起きている。本研究では、人間の安全保障、平和構築など紛争に関する新たな視点からの理論構築や事例分析を踏まえた上で、人類学的なミクロな視点からの分析を活用しながら、紛争に関する文化人類学的考察を行う。最終的には、比較の視点からオセアニアの紛争の特質を明らかにし、さらには学際的な紛争研究へと昇華させる。

活動内容

2012年度実施計画

本年度は、現地調査と関係資料の収集を行う。

前者については、これまでに引き続きフィジー本島の都市部、村落部を中心として聞き取りによる現地調査を行う。都市部においては、とくにNGO関係者へのインタビューが不十分であったので、スヴァ、ラウトカにて、可能な範囲で行う。

後者に関しては、本研究課題と関係する資料が収蔵されているオセアニアや旧宗主国関係の古文書館、図書館にて資料の閲覧・収集を行う。具体的には、オーストラリア国立大学の図書館、オーストラリアの国立公文書館に所蔵された資料を候補としている。資料収集活動はあわせて、オセアニア関連の主要な研究者との意見交換も行う予定である。

今年度計画していたアメリカにおける資料収集はある程度昨年度行うことができたので、当初計画を若干変更して、今年度はイギリスかオランダにて資料収集を行うことを考えている。殊にオランダのニコ・ベスニエル教授との情報交換を予定している。彼はトンガの暴動とグローバル化に関する書籍を上梓しており、その業績は高く評価されている。また申請者と研究関心を同じくしているが、申請者の主たる対象地域であるメラネシアと異なりポリネシアにおける事例を取り扱っているため、彼との議論を通じてオセアニアの<紛争>をより総合的な見地から検討することができる。

成果公開については、日本オセアニア学会などの各種学会、および国立民族学博物館、京都大学での研究会等で研究発表するほか、『国立民族学博物館研究報告』や一般書籍などへの論文投稿を予定している。また、本年度は、本研究課題の最終年度に当たるため、それと関係したシンポジウムの開催を複数計画している。

2011年度活動報告

本年度は、フィジーの国立古文書館、南太平洋大学にて関係資料(政府刊行物、紛争に関する研究書)の収集を行った。フィジーにおいては、首都圏近郊の諸村落におけるフィジー人、インド人、そのほかメラネシア系移民を対象とする聞き取りを通じて、人々の紛争時の経験及び紛争観についての情報収集に努めた。二大民族であるフィジー人、インド人以外の民族に関する資料を収集することで、紛争の対立のありようをより緻密に分析することが可能となった。

フィジー以外では、ドイツのフロベニウス研究所にて関係する資料収集と、同大学におけるオセアニア研究者と情報交換を行った。オセアニアの政治問題に関してはオーストラリア、ニュージーランドが研究上の中心地であるが、であるがゆえにオセアニア地域の大国としての政治的利害関係と密接に結び付きすぎているという問題があった。そうした国々とは異なる関係をオセアニアともっている、また日本と同じくオセアニアにおける旧植民地の宗主国であるドイツの研究者との情報交換を通じて、独立以降に展開している宗教的社会運動がオセアニア諸国家の現代政治に与える影響について有意義な議論を重ねることができた。

成果公開については、筑波大学、国立民族学博物館における研究会、シンポジウム等で研究発表を行った。以上を通じて紛争という国家間の問題とされがちな話題を、開発や福祉といった文脈や少数民族問題という視角から分析することができた。著作・論文は、『アジア経済研究所調査研究報告書』に掲載したほか、オセアニアにおける公共圏に関する論集に投稿済みである(来年度出版予定)。それ以外には、紛争に関する編著を来年度の出版に向けて準備中である。

2010年度活動報告

本年度は、フィジーの国立古文書館、南太平洋大学にて関係資料(政府刊行物、紛争に関する研究書)の収集を行った。フィジーにおいては、また、ダク村落とマタワル村落における短期間の滞在や、首都圏における両村落民への聞き取りを通じて、人々の紛争時の経験及び紛争観についての情報収集に努めた。フィジーが軍政下にあるため、調査には限度があったものの、フィジーに内在するローカルで伝統的な政体によって、紛争時の対応に差異が見られることが、ある程度明確となってきている。

フィジー以外では、ニュージーランドのオークランド大学にて紛争に関係する資料収集と、同大学における太平洋出身の政治学者の方々と情報交換を行った。オーストラリア、ニュージーランドなどオセアニアにおける大国の存在や、近年盛んになりつつあるNGOの活動、また先住民ほど政策とも関係しているアファーマティヴ・アクションなどがオセアニア諸国家の政治に与える影響について理論的な議論を重ねることができた。

成果公開については、アジア経済研究所、国立民族学博物館における研究会、国際シンポジウムで研究発表を行った。前者がグローバル化という切り口からオセアニアの紛争をとらえる上で有意義な知見を得ることができたのに対して、後者では紛争の中でも平和構築という切り口からアフリカの紛争と比較をすることができたという意味で有意義であった。著作・論文は、『オセアニア』(朝倉世界地理講座15)の著作に掲載したほか、『People and Culture in Oceania』、『国立民族学博物館研究報告』の査読誌に投稿し、それぞれ掲載された。