国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

熱帯高地における環境開発の地域間比較研究――「高地文明」の発見に向けて(2011-2015)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(A) 代表者 山本紀夫

研究プロジェクト一覧

目的・内容

熱帯高地は、これまで辺境とみなされ、ほとんど注目されなかった地域であるが、そこは古くから多数の人口を擁し、高度な文明も成立、発達した可能性が大きい。また、近年はアンデスやチベットなどの高地において急激に人口が膨張し、環境改変の動きが加速するとともに、環境破壊の問題も深刻になっている。本研究の目的は、このような熱帯高地に焦点をあて、そこでの環境と人間との相互関係を環境開発および地域間比較の視点から究明することである。さらに、研究代表者が40年あまりに及ぶフィールドワークをもとに提唱するに至った「高地文明」の仮説を検証確立することも大きな目的とする。これらの目的を達成することにより、熱帯高地における環境と人間の関係、とくに環境を改変し文明を成立させるに至った人類史の基本的枠組みが明らかとなる。さらに、高地の環境は一般に脆弱で土壌が貧弱であり、いったん破壊すれば回復がきわめて困難な環境であるため、そこでの環境開発の特色の究明は地球環境問題の解決にも資することになる。

活動内容

2015年度活動報告

平成27年度は、これまで行く機会の得られなかった北部アンデス高地(コロンビア)での調査を考えていたが、治安情勢が改善されなかったため断念、海外調査を次年度に繰り越すこととした。その代わりに、平成27年10月28日から11月4日に研究分担者の池谷和信がイタリアにおいて山岳国の文化に関する資料収集を実施、また研究協力者の杉山三郎が平成28年3月7日から22日にメキシコにおいてテオティワカン遺跡およびその周辺地域で文化人類学的調査を実施、さらに同年3月11日から19日にギリシアにおいて、研究協力者の稲村哲也がコリント遺跡などの考古学的調査を実施した。。
平成28年度は、繰越(翌債)年だったため、北部アンデス高地(コロンビア)においで研究代表者である山本紀夫が単独で調査を行なった。コロンビアは、1970年代から昨年9月まで反政府軍のゲリラ活動により治安情勢が悪く、それまでの約50年間にわたり調査が不可能であった。そのため、繰越を余儀なくされたが、ようやく9月27日に反政府軍と政府軍とのあいだで内戦の終結と平和構築の手順を定めた最終合意文章が書名された。その後も、しばらくコロンビアの治安情勢を見守っていたが、今年に入って調査は可能と判断、1月に調査を実施した。具体的には、1月19日にボゴタに入り、21日から24日まで、コロンビア最北端のサンタマルタ地方で広域調査を行った。さらに、同月25日から27日まではコロンビア高地の最南端であるサン・アグスティン地方で先スペイン期の遺跡、サン・アグスティン遺跡を調査、27日にボゴタに戻り、翌28日は終日黄金博物館において考古学資料を調査し、29日に帰路についた。なお、繰越金は上記のコロンビアにおける調査ならびに日本国内における出張旅費に使用した。

2014年度活動報告

本年度は、5年計画のうちの4年目にあたるため、これまで行く機会のなかった東アフリカ(ケニア)の高地を重点的に調査対象とする。すなわち、アフリカ研究者の池谷(研究分担者)を中心として、山本(研究代表者)、大山(研究分担者)が約10日間ケニア山(5,199m)山麓の熱帯高地を合同で踏査し、熱帯高地の環境と人々の暮らしとの関係を明らかにした。当初、この調査は熱帯アンデス(エクアドル・コロンビア)との地域間比較を目指していたが、コロンビアの治安情勢が良くないため、熱帯アンデスでの調査は次年度に延期とした。
一方、研究分担者の月原、川本はブータン等で現地調査を実施したほか、連携研究者の杉山はネパールで調査を実施した。

2013年度活動報告

前年度の調査に引き続き、研究分担者の池谷が20日間あまりペルー、ボリビア、エクアドルなどのアンデス高地で、連携研究者の鳥塚がペルー・アンデス高地で一カ月半広域調査および定着調査をおこった。研究代表者の山本は、約2週間にわたりインドネシアとインドを踏査し、南アジアの熱帯低地と熱帯高地の環境の比較調査を実施した。一方、研究分担者の大山は約2週間エチオピア高地を踏査したほか、連携研究者の稲村と杉山両名がそれぞれ約2週間ネパールに滞在して定着調査をおこなった。

2012年度活動報告

 

2011年度活動報告

本研究では、メキシコからグアテマラにかけての中米、中央アンデス、東アフリカ、そしてチベット・ネパールを「世界の4大高地」及びその周辺地域と位置づけ、そこで「高地文明」が成立したとの見通しのもとに研究調査を開始した。これらの地域のなかで、東アフリカ(主としてエチオピア)は熱帯高地という視点からの調査が乏しかったため、2度にわたり通算2ヶ月あまりをかけてエチオピア高地に広く踏査し、文化人類学や農学の視点から生態や民族、生業、遺跡分析などの調査を実施した。また、中米は従来の文献資料などでは熱帯高地と位置づけられていなかったため、研究代表者がメキシコ中央高地及びグアテマラ北部の予備調査を20日間かけて実施。その結果、メキシコからグアテマラにかけての高地部も熱帯高地であることが確認できた。そのため、本年1月末から3月末にかけて研究協力者として中米考古学の第一人者である杉山三郎アリゾナ大学教授(愛知県立大学併任教授)を中心に、考古学、文化人類学、地理学などの専門家も加えて総合的な調査を実施した。なお、研究代表者と研究分担者の本江昭夫は、11月初旬から末にかけて、チベットとの地域間比較調査のためにネパールに東部クーンブ地方を踏査し、環境や生業を観察した。また、研究代表者は本年4月末から5月初旬にかけての10日間、「インドのチベット」とよばれるラダーク地方も踏査したので、ヒマラヤ・チベットについて、さらには四大熱帯高地の地域間比較研究についても、グローバルな視野を獲得することが可能となった。