国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

インド音楽・舞踏のグローバル化に関する総合的研究(2011-2013)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 寺田吉孝

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究では、インド音楽・舞踊の現代的展開と変容をグローバル化との関連で考察するために、インド国内における音楽変容と、インドにおける音楽・舞踊文化に最も影響力を持つ欧米インド系コミュニティにおけるインド音楽・舞踊の実践を関連づけて考察する。地域間を結ぶ個人・団体の特定、かれらの活動内容や交流の実態の把握、音響としての音楽への影響に関する考察を行う。音楽・芸能における変化は内的要因だけではなく、グローバル化を背景とする音楽・舞踊文化の変質がその主要因になっている点を具体的に示すことができると考える。

本研究は、これまでの南インド古典音楽の研究蓄積を土台にしながら、北インド古典音楽や南北の古典舞踊を調査対象に加え、インド音楽・舞踊とグローバル化との複合的な関係を包括的・総合的に考察するものである。

活動内容

2012年度実施計画

本年度は5度の海外調査を行う。調査時期・場所・内容は下記のとおりである。

  • 第1回(平成24年4月~5月、約2週間):研究協力者の竹村嘉晃は、シンガポールにおいて南インド芸能のグローバル化に関する現地調査をおこなう。特に、ケーララ出身者によって主催される宗協儀礼にインドから参加する演奏者のネットワークや演奏慣習・演目に関する資料を収集する。
  • 第2回(平成24年8月、5日間):研究代表者の寺田吉孝はイスラエルで開催される国際伝統音楽評議会「音楽とマイノリティ」研究グループの第7回国際研究大会に参加し、インド音楽・舞踊のグローバル化に関する研究発表をおこなう。
  • 第3回(平成24年9月ごろ、約2週間):研究分担者の田森雅一は、昨年度に引き続きインドのデリーとラジャスタン州ジャイプルで現地調査をおこなう。デリーでは、カラーシュラム・カタック学院での聞き取り調査を継続し、北インド古典音楽・舞踊の演奏家の移動と社会関係の変化を調査する。ラジャスタンでは、現地の演奏家たちが海外音楽市場に送りだされるシステム・戦術について調査する。
  • 第4回(平成24年11月、約1週間):田森雅一はネパール・カトマンドゥ市周辺において、出稼ぎインド人音楽家の活動実態調査をおこなう。
  • 第5回(平成24年12月~平成25年1月、約2週間):寺田吉孝は南インド・チェンナイ市で開催される音楽舞踊祭に参加し、在外演奏家の現地音楽文化への影響に関する実態調査をおこなう。

また、日本におけるインド系コミュニティもその規模の拡大に伴い活発な音楽・舞踊活動を開始しているため、国内(特に東京江戸川区)においても予備的な調査を行いたい。

2011年度活動報告

研究代表者・寺田吉孝はカナダとインドにおいて現地調査を実施した。カナダでは、主にオンタリオ州トロント市おいて、同市を代表する2つのインド系舞踊グループ(インダンスとチャンダム舞踊団)の活動について実態調査をおこなった。インダンスは南インドの古典舞踊バラタナーティヤムの古伝統の復活と他ジャンルとの現代的な融合を同時に推進する舞踊団であるのに対し、チャンダム舞踊団は北インドの古典舞踊カタックを専門とする舞踊団である。今年度の調査から、両グループのメンバーの大多数は、多様な経路でトロントに移住したインド系移民であり、彼らの移民体験が舞踊団への参加と深い関係を持っているだけでなく、両舞踊団の活動形態、演奏スタイルがカナダ・インドを含む複数地域間の往来の中で形成されている実態が明らかになった。インドでは、南インド音楽の中心地であるチェンナイにおいてインド在住の音楽家・舞踊家とNRI(在外インド人)間のネットワークの実態調査をおこなった。特に、在外アーティストの活動に対するインド側の反応を調査する過程で、実験的な音楽・舞踊の実践が社会変革の場の一つとなっている点を実感することができた。

研究分担者・田森雅一はインドの首都デリーおよびラジャスタン州ジャイプルで現地調査をおこなった。デリーでは、カラーシュラム・カタック学院においてインタビューと舞踊指導の実態を調査した。当学院の創設者であるビルジュ・マハラージュは、カタックのグローバル化に大きく貢献した著名舞踊家であり、彼のこれまでの活動を詳細に記録する契機を得たことは大きな収穫であった。ジャイプルでは、多ジャンルの演奏家を傘下におくコンソーシアム的芸能集団「ラジャスタン・ルーツ」の活動について調査をおこない、現地の演奏家たちを海外音楽市場に送りだすシステム・戦術について理解を深めた。