国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

アジア、ヨーロッパ、アフリカに関わるテキスタイル・グローバリゼーションの研究(2011-2013)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 吉本忍

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究は、現在アジア、アフリカにおいて民族衣装の素材として広く使用されているプリント更紗が、インドネシアやインドの伝統的染織技法とデザインをもとにして、ヨーロッパの植民地支配を背景にしたグローバルな交易と産業革命による技術革新によって創出され、広く展開してきた歴史的経緯を、サンプル帳を始めとする資料の検討によって実証的に明らかにするものである。本研究を通して、私たちが経験する伝統工芸の変革と文化の創出の場面におけるグローバル化の功罪などの本質的意義について批判的視座を提示することを目的とする。

活動内容

2013年度活動報告

9月に、吉本、金谷はインドネシアにおいてジャワ更紗と現代プリント更紗の現地調査を行った。まず、プカロンガンにおいて、両面ロウ置きバティックの製造工程を調査し、インタビューを行った。ジャカルタにおいて、National Museum所蔵の木版の調査を行い、I工房において機械による両面捺染のバティックの新技術についてインタビューを行った。これらの調査によって、インドネシアで展開している両面プリント技術と、伝統的な更紗技術の連関を明らかにすることができた。
10月に、吉本は、フランス(パリ)のパリ工芸博物館、オランダ(ヘルモント)のフリスコ社アーカイブ、ドイツ(ケルン)のダイヤモンド・ヨースト博物館(Rautenstrauch-Joest-Museum)、スイス(ブルシン)のピエール・ヴ―ビエ(Pierr Bouvier)邸、スイス(グラルス)のグラルス州立博物館(Museum des Landes Glarus - Freulerpalast)において、プリント・テキスタイルの資料の閲覧、調査を行った。
2月に、吉本、金谷は、スイス(グラールス)のDaniel Jenny & Co.アーカイブにおいて、プリント・テキスタイルの資料の調査を行った。グラールス州立図書館において、染織産業に関わる資料の閲覧、調査を行った。これらの調査により、19世紀末から20世紀初頭のスイス東部における捺染業の概要とその製品について明らかにする資料を得ることができた。
大阪府産業デザインセンター旧蔵のプリント資料について、吉本、金谷が調査を行い、研究補助者とともにデータ化した。
これらの研究の成果については、金谷が11月に東京大学で開催された国際シンポジウムにて発表し、2月に単著論文を出版した。

2012年度活動報告

本研究の目的は、現在アジア、アフリカにおいて民族衣装の素材として広く使用されているプリント更紗が、インドネシアやインドの伝統的染織技法とデザインをもとにして、ヨーロッパの植民地支配を背景にしたグローバルな交易と産業革命による技術革新によって創出され、広く展開してきた歴史的経緯を、サンプル帳をはじめとする資料の検討によって実証的に明らかにするものである。
平成24年度、研究分担者の金谷は、3月にオランダのフリスコ社ミュージアムとロッテルダム世界博物館において19世紀末から20世紀初頭にかけてプリント会社が作成したプリント更紗のサンプル帳の調査を行った。昨年度における調査によって、研究代表者の吉本と、分担者の金谷は、グローバルな交易と技術革新が契機となってプリント更紗がアジア、アフリカ向けにオランダで生産されたことを明らかにするような、以下のような貴重な資料を発見した。
(1)東アフリカ向けプリント更紗製品のサンプル、(2)英領インドで収集された染織品、(3)東アフリカで収集された初期カンガのサンプル、(4)インドネシア向け、東アフリカ向けのイミテーション・バティック。
これら資料のうち(1)~(3)について重点的に調査を行い、画像の電子データ撮影、文字資料についての一部解読を行った。さらに、昨年度の調査によって入手したオランダ語の文献2点の翻訳を行った。
また、旧大阪府産業デザインセンターから寄贈されたプリント更紗の資料のうち、東アフリカ向けの日本製プリント製品について、研究補助者とともに、画像データの撮影、文字データの整理、入力を進めた。

2011年度活動報告

8月に、吉本、金谷はオランダ、ベルギーにおいて19世紀後半から20世紀初頭にかけてプリント会社が作成したプリント更紗のサンプル帳の調査を行った。フリスコ社の所蔵する108点のサンプル帳と、ロッテルダム世界博物館の所蔵するサンプル帳7点の合計115点のサンプル帳について重点的に調査を行い、画像の電子データの撮影、文字資料の一部読解を行った。また、アントワープ服飾博物館、ロッテルダム世界博物館、ライデン大学においては専門家と意見交換を行った。調査の結果、サンプル帳のなかに(1)東アフリカ向けのプリント更紗製品のサンプル、(2)英領インドで収集された染織品、(3)東アフリカで収集された初期カンガのサンプル、(4)インドネシア向けイミテーション・バティックのサンプルを発見することができた。
この研究の成果については、金谷が2月に国立民族学博物館で開催された国際シンポジウム「Consuming Textiles through Their Uses and Reuses」にて「Imprinting Indian design on African Kanga Cloth」という題目で発表した。また、『現代インド研究』誌に研究論文を執筆、投稿した。
国立民族学博物館所蔵の、旧大阪府産業デザインセンターの輸出繊維商品関係資料については、整理と閲覧を行い、一部画像の電子データを撮影した。