現代中国の人々の生活実践に関する人類学的ライフヒストリー・ アプローチ(2011-2013)
目的・内容
本研究の目的は、ライフヒストリーの手法を用い、安徽省都市部と農村に在住している8人とその家族に焦点を当てて、人々の生活実践レベルにおける社会主義革命の意義及びグローバル化による中国の社会変化の様態とメカニズムを考察すると同時に、人類学研究におけるライフヒストリー・アプローチの有効性を再検討し、ライフヒストリーの比較研究の理論的構築を試みるところにある。具体的に三つの視点からアプローチしていく。
- 社会主義革命のイデオロギー、諸制度、市場経済体制の下に導入されたグローバルな理念と生活様式がいかに個々人に受け入れられたのか?
- 受容された概念や生活様式は、どのような意識と環境の下に如何に実践されているのか?
- 複数の個人とその家族のライフヒストリーを比較し、共通点と多様性を見いだす。
活動内容
2012年度実施計画
前年度に得られた資料を整理し、本人とその家族に確認しつつ、新たな調査対象について聞き取り調査を行う。
1950年代に中央政府に全国労働模範と三八紅旗手(優れた女性労働者)として表彰された安徽省農村部の女性(4)陳淑貞の遺族にインタビューを行い、社会主義集団化の実態、革命的ジェンダー観、家庭観の理念と彼女たちの日常的実践を調べる。また、理系教師歴53年の(5)謝さん(男75歳)について聞き取り調査を行う。貧しい農家に生まれ、社会主義建国後、村の初めての大学生となり、のちに共産党員、大学の教員となった謝さんは、父系一族の族長でもあり、族譜の編纂や祖先崇拝などに携わっている。儒教的規範、父系親族理念と社会主義的理念が如何に内在化され、彼の日常的生活に実践されているのかを調査する。
1960年代の理系大学生、軍人、銀行マンを経て風水師になった(6)李さん(65歳男性)の人生を詳細に調査し、風水測定の技術の伝承、ビジネス化された彼の風水事務所の運営、社会主義国家における風水信仰の実態を調べる。
2011年度活動報告
本年度は、ライフヒストリーの手法を用い、宿州市で老人ホーム経営者(男55歳)、風水師(男67歳)、キリスト教徒(女89歳)とその長女(59歳)、瀋陽市で元知識青年(男56歳)と元解放軍兵士(女80歳)の6人を対象に、15の項目(出産、命名、躾け、学校教育、働き・仕事、消費、交友、恋愛、結婚、家族、子育て、扶養、エージング、死、祭祀)を通して、生活実践レベルにおける社会主義革命の意義及びグローバル化による中国の社会変化を考察した。
研究成果は以下の3つにまとめることができる。まず、1950年代の「抗美援朝、保家衛国」(朝鮮を援け、アメリカに対抗するのは、家を保ち国を衛るという国民総動員のスローガン)、教育・雇用における男女平等、ソ連型工業化の実施、無神論的教育、階級論、60年代後半70年代までの「上山下郷」(都市部の青年層が農村で肉体労働による思想改造)、80年代以降の老人扶養のビジネス化、宗教信仰の規制緩和が、上記の6人の人生経験を大きく左右したことがわかった。15項目の中で、躾、学校教育、仕事、結婚、家族の5項目に影響が見られた。また、50年代から80年代までの社会主義的理念と諸制度の受容は、押しつけられたものが多く、社会全体、職場、学校、家庭と個人のレベルで実践されていた。現在では男女平等以外、社会と個人レベルでは実践されていないことが明らかになった。
最後に、老人扶養のビジネス化、風水判断のビジネス化と風水知識の伝授のケースには、伝統的中国文化と理念の市場経済化が窺われる。一方、キリスト教徒の家系に第6代目として生まれた生氏(女89歳)、彼女の兄弟姉妹(中国大陸・香港・アメリカ在住)および彼らの子供と孫たちのライフヒストリーからは、社会主義革命や海外移住などによって第7世代のキリスト教信者の激減、第8世代の神学以外の高学歴化とライフスタイルの自由化が見られる。







