国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

海外生産の技術移転の実態調査(2011-2013)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 出水力

研究プロジェクト一覧

目的・内容

アジア地域を中心とした日本企業の海外生産は、現地の安い労賃、原材料を調達し、現地生産することで日本並みの高品質を実現することに他ならない。そのために日本的ものづくりを現地で、どのように実現するかにかかっている。それには大手の一次サプライヤーを支える中小企業である二次サプライヤーの存在を無視できない。ところが二次サプライヤーの生産実態を正面から取り上げた研究はほとんど皆無である。この等閑視された領域を現場・現物・現実の視点で明らかにしたい。また、一次サプライヤーやアッセンブラ―の動向も可能な限りフォローしたいと考えている。主な調査の視点は以下に示すように、
(1)海外生産における二次サプライヤーの役割を、技術経営的な側面から明らかにする。
(2)中小企業の海外進出の経緯、技術移転、現地での経営組織と運営の在り方を調査する。
(3)日本から派遣された駐在員の役割と、現地ワーカーのトレーニングを含めた技術・技能訓練のやり方に加え、ものづくりは人づくりと言われる実態にも目配りをしたい。
以上の事柄の他に現地事情・文化的な背景を含めた調査も比較検討する予定である。

活動内容

2013年度活動報告

マレーシアでは、2輪車のスズキ、ホンダの工場とアームストロングオートパーツ、エンジン部品の加工をするリズム部品、自動車ボデーのトヨタ車体などを見学した。スマートホンなど電子部品企業の田中電子では精密ボンディングワイヤーの引き抜き、水晶振動子の日本電波工業では極薄膜加工、超小型モーターのコア部品のプレス成型の黒田精工を周った。
タイでは自動車関係でトヨタの2つの工場を見た、一つは乗用車工場と、もう一つは日本では見られないアセアンモデルのピックアップトラック工場である。後者はトラック兼乗用車というべき性格を有している。日野自動車は大型トラックとトヨタ用ピックアップトラックのラザーフレームが生産の主体である。
自動変速機のジャトコは、最新設備を備え日産の現地生産をサポートする体制にあった。ナブテスコの建機部門はコマツ製作所の協力部品工場で、油圧モーターなどコア部分を担当していた。パナソニックの協力工場の村元工作所を数年ぶりに訪ねたが、家電の不振から脱却すべくカーオーディオの生産に力が入れられていた。樹脂部品・ダイカスト部品の企業は多く、5社を見学した。ベトナムではホーチミンにある中小零細企業向けのロンドウック工業団地のレンタル工場を見て回った。ラオスではスーツ、カンボジアではベビー服の縫製などを見学した。 以上の調査結果から、もはや産業の空洞化は死後になった。
生産のグローバル化の進行は避けられなく、海外現地生産をこなしている企業は、国内との生産の棲み分け、仕事の還流などを行うことで、利益を上げている。その結果、貿易収支は赤字が続くのは当然の帰結に過ぎない。海外直接投資のリターンを、今後ますます増加させるには現地に出かけ日本的な技術経営を地道にこなせる人材の育成は不可欠であり、真に現地化出来る人材を、老人大国化した日本から輩出出来るかにかかっている。

2012年度活動報告

 

2011年度活動報告