国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

東南アジア大陸部における焼畑の変容過程の比較研究(2011-2013)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|若手研究(B) 代表者 増野高司

研究プロジェクト一覧

目的・内容

東南アジア大陸部の各国においては、土地管理および森林保護の観点から焼畑を抑制する政策が実施された結果、焼畑を営んできた住民の生計をいかに維持するのかが現在の緊急課題となっている。
本研究は、すでに焼畑の衰退が進んだタイと、焼畑の変容が急速に進行しつつあるラオスやベトナムなど、東南アジア大陸部に位置する各国の村落を事例として、世帯レベルでの畑地利用歴に着目し、国家政策や商品経済の影響に伴う生計活動の変化を比較分析することで、両国における焼畑の変容過程の特徴を示すことを目的とする。そして従来、焼畑が卓越してきた東南アジア大陸部における、焼畑やその跡地の管理や住民の生計維持に向けた指針を提示する。

活動内容

2013年度活動報告

2013年度は、本研究課題の実施最終年度である。初年度(2011年度)にはタイ北部の農村において、土地利用様式の変化に関する調査を実施し、2012年度には、タイでは北部と東北部の農村、そしてベトナム北部の農村において焼畑の衰退過程および稲の栽培様式などについて調査を実施した。そして2013年度には、2013年8月および2014年2月にタイ北部の農村、そして2013年12月にベトナム北部の農村において、2011年度および2012年度の調査に関する補足調査を実施した。その結果、タイ北部の調査村では、2012年以降になると家族の一部のメンバーではなく、一家を挙げて都市部に働きに出る世帯が増加していることが明らかになった。焼畑が衰退して以降、山村の出身者には、出稼ぎなどを通じ、都市との交流、都市への適応が必要とされていると考えられる。
研究成果の一部として、アジア各地で営まれてきた焼畑およびその衰退状況などについて、現地調査および文献調査の結果をまとめた論文を執筆した(増野高司(2013)「アジアの焼畑」片岡樹・シンジルト・山田仁史(共編)『シリーズ来たるべき人類学 第4巻 アジアの人類学』春風社.pp.107-151.)。この論文では、アジア各国における焼畑の衰退状況を概観すると同時に、焼畑の特徴である休閑期間および、その休閑地に着目し、雑草を抑制するための技術としての焼畑、さらに焼畑と近代的な土地法および自然保護の考え方との軋轢などについて説明することから、焼畑の継続が困難になっている現状を示した。
また、2013年度には『日本文化人類学会第47回研究大会』での発表(発表タイトル:タイ北部のミエン族山村における「伝統的」農業技術の衰退-陸稲の収穫技術に着目して-)をはじめとして、合計5回の学会等での研究発表をおこなった。

2012年度活動報告

2012年度には、タイ北部および東北部、およびベトナム北部の農村において現地調査を実施した。具体的には、2012年11月および2013年1月にタイ北部の農村、2012年7月に東北タイの農村、2012年8月および12月にベトナム北部の農村を訪問し、稲作の栽培様式に着目し、焼畑の実施状況および衰退状況について調査を実施した。さらに、例えば、出稼ぎそして小規模な家畜飼育や森林産物の採集など、稲作以外におこなわれる生業および経済活動に着目し、焼畑衰退後の生計維持手段に関する調査を実施した。
その研究成果について、2012年度には4編の学術論文を執筆するとともに、9回の学術発表をおこなった。とくにタイ北部のミエン族が暮らす農村における生業および経済活動の変化に関して論じた論文を出版した(MASUNO Takashi 2012. “Peasant Transitions and Changes in Livestock Husbandry: A Comparison of Three Mien Villages in Northern Thailand”. The Journal of Thai Studies. 12:43-63.)。この論文では、焼畑が衰退した農村において、陸稲の栽培が継続されることが多いこと、そしてブタやニワトリなどの世帯レベルでの小規模な家畜飼育が継続されていること、換金作物への食害が頻発によりウシ飼育が困難になっていることを報告した。また、小規模な家畜飼育が農業を引退した高齢者にとって重要な日々の活動になっていることを指摘した。

2011年度活動報告

2011年度には、タイ北部の山村を中心に調査を実施した。具体的には、2011年6月、10月、2012年1月にタイ北部のミエン族が暮らす農村を訪問し、陸稲栽培を中心に、焼畑の衰退に着目し、その土地利用様式の変化について調査をおこなった。
その研究成果について、2011年度には6編の学術論文(うち4編が査読付き)を執筆するとともに、13回の学会発表をおこなった。なかでも、2011年7月にバンコクで開催されたタイ研究に関する国際会議(The 11th International Conference on Thai Studies)では、口頭での発表(発表タイトル:Changes in the upland agriculture of a Mien hillside village, Northern Thailand.)をおこなった。この発表では、タイ北部の山村を事例として、焼畑の衰退過程を報告するとともに、焼畑衰退後に新たな経済活動として、タイ王室の「王室プロジェクト」によりゴムノキの植林が進められていること、そしてゴム樹脂の採集および販売が開始されていることを報告した。
ぐる在来知-ミエン族と陸稲との関係-」『生き物文化誌学会 ビオストーリー』15:84-98。)。この論文では、陸稲の耕作地の選択に関わる在来知識の変化について、焼畑から常畑へ農法が変化するなかで、ミエンの人びとが新たな農業技術を取り込みつつ陸稲の栽培を続けていることを指摘した。
タイ北部以外では、2011年10月にベトナム北部のミエン族が暮らす山村等を訪問し、予備調査を実施し、2012年度の本調査に向けた準備を開始した。