国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

映像を用いた東南アジアのゴング文化の音楽人類学的研究(2012-2014)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 福岡正太

研究プロジェクト一覧

目的・内容

東南アジア諸地域において、ゴングは、霊的な力を備えた音具、楽器、権力を示す財産、交易品などとして重要な位置を占めてきた。この研究は、東南アジア諸地域のゴング文化の特徴と相互の関連を、現地調査と映像記録作成を通じて明らかにし、東南アジアのゴング文化を総合的に理解することを目的としている。特に、(1)これまで研究の少なかった地域のゴング文化の調査、(2)各地におけるゴング製作と調律技術の比較、(3)主にゴング流通からみた地域間の相互関連の解明に重点をおく。また、映像を重要な研究手段として位置づけ、現地における映像上映と意見交換を通じて、研究成果をフィードバックし、ゴング文化を支える人びととともに東南アジアのゴング文化についての新たな知を構築する試みをおこなう。

活動内容

2014年度活動報告

1.東南アジア大陸部では、ベトナム中部高原にて、これまで撮影した映像を関係者と視聴して意見交換をおこない、さらにゴング演奏や関連する民謡等について調査撮影を進めた。また、ラオス東北部において楽器使用等について調査をおこなった。当初調査予定だったカンボジアについては、長期にわたり調査を続けている井上航氏と情報交換を密におこない、国立民族学博物館が所蔵するゴング文化の記録映像と併せて、比較検討の材料とした。この地域の特徴である平ゴングの使用とこぶ付ゴングとの合奏の広がり、儀礼との結びつき、特に精霊との交流におけるゴング演奏の重要性、ゴングの流通を支えるゴング製作工房や調律師の役割について明らかにした。
2.主にインドネシアのジャワ島、バリ島、ロンボク島での調査撮影を進めた。青銅製ゴングおよびその代用品と捉えられることの多い鉄および真鍮製のゴングの製造と流通、使用の歴史的動態が明らかになってきた。特に1980年代以降、学校教育で地域の文化を教えるために大量のゴングの需要が生まれ、大量の注文をさばくゴング商が誕生し、比較的安価で製作も容易な鉄製ゴングの製作と流通のネットワークが生まれた。また、鉄製ゴングの突起部に真鍮製のこぶを取り付けるなど、新しい製作手法が広がっている。
3.フィリピンにおいて、11回にわたり映像の上映および意見交換をおこない、映像が音楽文化の継承や活性化に果たしうる役割を検証した。映像は音楽伝統の伝承において大きな役割を果たしうる。その特長を生かすために、学術的映像における文字情報の効果的かつ適切な位置づけなどを再検討する必要が指摘された。さらに、1人の創作者の作品として映像を考察するばかりでなく、伝統継承者、研究者、教育者、一般の聴衆など、多様なアクターを結び付けて音楽文化を活性化するプロセスとして映像を再想像する必要が確認された。

2013年度活動報告

平成25年度は、ラオス、インドネシア等にて調査撮影を進めたほか、東洋音楽学会大会にて、中間的な成果報告をおこなった。また、ロンドン大学等で関連する映像の上映をおこない、関連分野の研究者等との意見交換をおこなった。
1.ラオスにおいては、南部山間部において調査撮影等をおこなうとともに、平成24年度の調査映像を政府関係機関および調査対象村の関係者に渡し、意見交換をおこなった。開発が進み、急速に社会が変化しつつあるが、伝統的なゴング文化は比較的変わらず伝えられており、ゴングに関する信仰やタブーについて調査を進めることができた。
2.インドネシアでは、ジャワ島、バリ島、ロンボク島などにおいて調査撮影を進めた。これまでの調査により、これらの地域における青銅製のゴングの製造および流通の概要を把握することができたが、それに加え、鉄製のゴングの製造および流通についても調査を進めた。鉄製ゴングは、青銅製のものとは異なる製造過程と流通経路をもつことが明らかになりつつある。
3.東洋音楽学会大会において、パネルディスカッション「ゴング文化研究への視角」を組織し、これまでの研究成果の中間報告をおこなった。A. これまで比較的調査が進んでいなかったベトナムとラオスの少数民族のゴング文化について報告し、B. 広い範囲でのゴングの製造拠点と流通の再編を背景として、地域のゴング文化を維持するために調律師の存在が重要であることを指摘、また、C. 鉄製ゴングが青銅製ゴングとは異なる製造と流通のパターンをもつことを示し、鉄製ゴングに注目することでゴング文化の多様性への理解を深めることにつながると論じた。
4.ロンドン大学、エストニアのワールド・フィルム・フェスティバル等で、東南アジアのゴングに関連する映像の上映をおこない、映像を通じてゴング文化を研究する可能性について、多くの研究者らと議論をおこなった。

2012年度活動報告

平成24年度には、(1)ベトナム中部、ラオス南部、タイ、(2)フィリピン、(3)ジャワ島、バリ島、ロンボク島にて調査撮影等をおこなった。
1.ベトナム中部及びラオス南部は、カンボジア北部やフィリピン・ルソン島とともに、平ゴングを用いるアンサンブルを特徴としている。これらの地域のゴング演奏等を調査撮影するとともに、ホイアン近郊の村にて、現在も平ゴングが製造されていることを確認し、調査撮影をおこなった。ラオスやカンボジアにおいては、これまで平ゴングの製造を確認できていないが、今後、これらの地域が平ゴング流通においてどのようにつながっているのかを明らかにする端緒となるだろう。また、タイにおける小型こぶつきゴング製造過程の調査撮影の成果と合わせて、他地域におけるゴングの製造や調律の技術との比較研究の素材としても重要である。
2.フィリピンは、治安上の問題により、ゴング・アンサンブルをもつ地域の調査撮影は困難な状況にあるため、過去に国立民族学博物館が撮影した映像の上映会をマニラ等においておこなった。上記地域を出身地とする人々の参加を得て、彼らのコミュニティにおけるゴング・アンサンブルの重要性を明らかにするための手がかりとすることができた。
3.ジャワ島、バリ島、ロンボク島では、ゴングの製造と流通の過程について、調査撮影をおこなった。特に大型こぶつきゴングの製造については、ジャワ島中部が東南アジア島嶼部のセンターとして機能していることが明らかになってきた。一方、小型ゴングの製造や調律作業等は、ゴングが使用される地域でおこなわれる傾向が強く、ゴング関連楽器の製造と流通における分業が見られることも明らかになっている。また、マレー半島からジャワ島へのゴング製造の注文も多いことが明らかになり、今後、マレーシアにおける調査により、島嶼部のゴング流通やゴング文化の動態を明らかにすることができるだろう。