越境する「中国帰国者」の生活世界―包摂と排除をめぐる境界文化の社会学的研究―(2008-2010)
目的・内容
本研究の目的は、越境する「中国帰国者」の移動経路や生活世界について調査し、エスニック・マイノリティとしての「中国帰国者」をめぐる日中両国の包摂と排除のメカニズムを明らかにした上で、国際社会学的に比較研究することである。具体的な作業として、「中国帰国者」の日本への永住/定住の統計的推移にともなって変化する日中両国の地域変化の比較調査/分析、日本での定住/永住化の実態や中国への「逆戻り」現象、越境する家族の実態といった国境を越えて構成されるその生活世界の諸相を明らかにし、地域社会における「中国帰国者」をめぐる包摂と排除の実態をエスニック関係という視点から解明することなどがある。最終的には、「中国帰国者」と日本/中国社会との関係の変遷や、他者視され続けてきたがゆえに越境性をもつその独自の「生活論理」としての「境界文化」をめぐる文化的実践の諸相について分析し、「分厚い記述」を目指していく。
活動内容
2010年度活動報告
本研究の目的は、越境する「中国帰国者」の生活世界の実態や、彼(女)らをめぐる包摂と排除のメカニズムを明らかにしつつ、それに関する社会学的分析や境界文化の「分厚い記述」を目指すことである。
本年度は、特別研究員の最終年度にあたり、これまでの研究成果をふまえて補充調査を行いつつ、最終まとめを行った。調査活動に関しては、具体的に、台湾の外交資料館と国史資料館、中国の外交部等の資料館や中国国家図書館、および、日本の外務省資料館で資料調査し、戦後も中国に取り残された日本人政策や日本人社会の実態について整理した。またハルビン市周辺に居住している中国残留日本人についても調査した。
これらの調査活動とは別に、今年度は、中国帰国者のアイデンティティのパフォーマティヴィティに関する論考を二本発表した。一本目は、「中国残留日本人」の呼称を手掛かりに、中国残留日本人のアイデンティティの社会的構築過程を明らかにしつつ、具体的な語りの分析をとおして、そのアイデンティティのパフォーマティヴィティには政治的、社会的、対自的の三つの位相があることを指摘した。もう一本は、中国残留日本人と個別引揚者のアイデンティティのパフォーマティヴィティに関する比較分析をとおして、中国残留日本人という法的カテゴリーが当事者のアイデンティティに与える影響を明らかにした。
さらに、今年度やこれまでの研究データを総合して、中国帰国者をめぐる包摂と排除に関する歴史社会学的な分析や、中国帰国者をめぐる表象と実践の境界文化に関する社会学的分析を行った。
2009年度活動報告
本研究の目的は、越境する「中国帰国者」の生活世界の実態や、彼(女)らをめぐる包摂と排除のメカニズムを明らかにしつつ、それに関する社会学的分析や境界文化の「分厚い記述」を目指すことである。本年度は、昨年度の研究調査成果をふまえつつ、中国の外交部等の資料館や中国国家図書館、および、日本の外務省資料館で資料調査をおこない、戦後も引き続き中国に居住していた日本人に関する日中両国の政策について整理した。また関西地域の中国帰国者コミュニティを中心に、聞き取り調査もおこなった。
これらの調査成果を基に、本年度は、研究報告を1回おこなったほか、論考本、聞き書き4本や雑誌1本を発表した。具体的には主に、以下の研究課題について考察した。(1)戦後の中国にいた日本人に対する中国側の政策がどのように形成されたのかを中国側の資料を用いて、明らかにした。(2)国家賠償訴訟運動での「中国帰国者」の活動について考察し、「中国帰国者」というエスニック・グループが表出していった歴史/社会的プロセスを明らかにした。(3)「中国残留日本人」の呼称とライフストーリーを手掛かりとして、そのアイデンティティの社会的構築過程について考察し、残留日本人らのアイデンティティのパフォーマティヴィティが政治的、社会的、対自的の三つの位相にわたって実践されていることを指摘した。これをふまえた上で、「中国帰国者」の生活世界を捉えるには、三つの位相を総合的に考察していく必要性があることを主張した。
2008年度活動報告
本研究の目的は、越境する「中国帰国者」の生活世界の実態や、彼(女)らをめぐる包摂と排除のメカニズムを明らかにしつつ、それに関する社会学的分析や境界文化の「分厚い記述」を目指すことである。本年度は、戦後中国の対中国居住日本人政策を明らかにするため、中華人民共和国外交部資料館(北京市)、東北三省(主に黒竜江省と吉林省)や山東省(青島市)を中心に史料調査と収集を実施した。また国内では、京都市中国帰国者の集住地を中心に、ボランテイアとして支援活動に携わりながら、参与観察や個別の聞取り調査をおこなった。これらの調査成果を基に、本年度は、共同研究会(2回)やシンポジウム(2回)及び学会(3回)で計7回研究報告し、論稿(聞書き4本、雑誌1本、論文3本、書評1本)などを計9本まとめた。本年度の研究活動や研究成果によって、以下の研究課題について考察した。
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満洲移民の離散
戦前中国に住んでいた日本人は、戦後、日本や中国だけではなく、他の国へ渡った人もいたことを指摘した。 -
引揚者のコミュニテイ
引揚者は、戦後、中国で留まった時の形態(一般、戦犯、留用)や日本に帰還した時期の違いによって、異なるコミュニテイを形成し、それぞれのコミュニテイに異なる満洲の記憶が語られていったことを指摘した。 -
中国残留日本人の歴史的形成
中国残留日本人の形成を戦後日本の国民統合政策特に引揚げ事業に焦点を絞って考察し、未帰還者問題が国内政治化していくプロセスを追うことで、その包摂と排除のメカニズムを明らかにした。 -
中国帰国者の国籍と戸籍問題
3.と関連して、中国帰国者の国籍と戸籍問題について考察し、中国帰国者の法的地位や法制度における包摂と排除のメカニズムを明らかにした。







