国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

植民地時代から現代の中南米の先住民文化(2014-2018)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|新学術領域研究(研究領域提案型) 代表者 鈴木紀

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、アメリカ大陸の先スペイン期に栄えたメソアメリカ文明とアンデス文明が、植民地時代から現代まで、中南米諸国の先住民文化に及ぼした影響を検証することである。資源人類学の「文化の資源化」という概念を援用し、いかに両文明が資源化され、先住民文化が形成されてきたかを、植民地時代と現代との通時的な比較、メソアメリカ地域・アンデス地域・周辺地域との共時的な比較、および資源化の主体が先住民族であるか非先住民族であるかの比較を通じて明らかにしていく。
こうして古代アメリカ文明を、後世の人々がどのように理解し、文化的アイデンティティの構築、政治的統合の象徴、経済的な富の源泉等として活用してきたかを探究する。またこの作業を通じて、これまでの古代アメリカ文明に関する考古学的な研究では十分に検討されてこなかった文明の終焉という概念ついて、衰退/継続/復興という多様な可能性を考慮しながら理論化を試みる。

活動内容

2017年度実施計画

研究代表者と以下8名の研究分担者で研究組織を構成する。6月と12月(予定)に研究会を行い、3月に一般公開のシンポジウムを開催する。各研究者の研究計画は以下の通り。
鈴木(研究代表者):ペルーを中心とするアンデス地域、及び中米地域における古代文明の博物館展示の比較研究と、文明概念の再検討を行う。研究会とシンポジウムを企画、実施する。
禪野: メキシコ市内に多数存在する旧先住民村落において、自称「地元民」が土地と自治への権利を主張する際に、自らの歴史をどのように定義し、それを発信しているか、フィールドワークを中心に調査・研究する。同時に文献研究を継続する。
井上: 先スペイン期の伝統の連続と断絶に焦点を当てて植民地時代の先住民クロニカの分析を継続する。とりわけ、16世紀後半から17世紀にかけて作成された文書における「匿名著者」(著者不詳)の問題点を掘り下げて検討する。
本谷:グアテマラ高地の三つの先住民村落において、血縁関係のある世代の異なる3人の女性たちに、機織りと民族衣装に関するインタビューをおこない、当該地域の衣文化の変化を明らかにする。
藤掛:パラグアイの伝統工芸品ニャンドゥティ、アオポイ、エンカヘジュの作り手が考える伝統と買い手が考える伝統、それを仲介する人々の認識のずれについて調査を継続する。さらに薬草文化についても調査する。
工藤: チリの首都の二つのマプーチェ組織による民族医療活動の調査を継続し、さらに、首都近郊のマプーチェ組織の一つの民族医療活動の調査を開始する。いずれも民族医療を提供する側の人々が利用する文化資源の由来や位置付け等を探る。
生月:エクアドルの先住民族教育における古代文明の資源化に関する文献研究を継続する。研究会に参加し、他の中南米諸国と比較しながらエクアドルの先住民教育と先住民文化の維持、発展における独自性について考察する。
杓谷:観光地における地域住民の関与に関する文献研究を行い、合同研究会・シンポジウムに参加する。
小林:メキシコ政府開発事業「プエブロス・マヒコス」に対する地域社会の応答を分析する。モレロス州テポストラン市の都市景観保護をめぐる市民活動の経緯を例証しつつ、プエブラ州チョルーラ市の文化的景観の再編成と市民連帯の実態を考察する。

2016年度活動報告

9月、1月、3月に国立民族学博物館で研究会を開催した。1月と3月は外国人研究者を招聘した。研究代表者の鈴木は、メキシコ国立人類学博物館およびアステカ文明に関する博物館展示の分析を継続した。
生月は、エクアドルの先住民教育政策と先住民文化に関して現地調査を実施した。先住民教育のプロジェクトを参与観察し、先住民教員と意見交換を行った。井上は、植民地時代メキシコのクロニカの分析を続け、サパタやイシュトリルショチトルほかシグエンサなどの歴史書を対象に、植民地期における先スペイン期文化イメージを考察した。
工藤は、チリのサンチァゴ市で二つのマプーチェ組織の民族医療活動の調査を継続した。民族医療を受診する患者にとっての民族医療の位置づけや薬草などについてデータを収集した。小林はメキシコ政府観光開発事業「プエブロス・マヒコス」の展開が地域社会に及ぼす影響を明らかにするため、登録地であるプエブラ州チョルーラとモレロス州テポストランにおいて継続調査を実施した。
杓谷は、メキシコ、ユカタン州のチチェン・イツァ遺跡公園と近隣のコミュニティとの関係性についての調査を行い、比較のために同州のエク・バラム遺跡公園、および中央高原のテオティワカン遺跡公園でも調査を実施した。禪野は、メキシコ市内旧先住民村落の居住者による「過去」の解釈を調べるため、1)サン・ヘロニモ地区の自称「地元民」による「伝統的」なカトリックの祭礼、2)サン・ベルナベ地区で復元されたピラミッド上で行われる新たな儀礼を調査した。
藤掛は、パラグアイの伝統工芸品ニャンドゥティ、アオポイ、エンカヘジュの作り手が考える伝統と買い手が考える伝統、それを仲介する人々の認識のずれについて調査を行った。本谷は、グアテマラ高地の五つの先住民村落において、コマラパ村の一人の女性が生み出した紋様見本帳によって女性の機織りに生じている変化と現状を調査した。

2015年度活動報告

10月に東京で研究会を開催し、研究分担者の進捗状況を確認した。各研究分担者の研究概要は次の通り。
 鈴木は、エクアドルのキト市とクエンカ市等でアンデス地域の先住民族に関する博物館の展示手法の調査を行った。またペルーの博物館資料との比較研究を行った。井上は、先スペイン期テスココおよびトラスカラのイメージ形成に関わる植民地時代以降の先住民クロニカ(年代記)資料を収集した。上記地域の現状把握のためにメキシコで調査を行った。工藤は、チリのサンチァゴ市で二つのマプーチェ組織の活動の参与観察を実施した。組織メンバーからの聞き取りと国立図書館等での文献調査からマプーチェ文化に内在するインカの影響について考察した。
小林は、地方創生を意図した観光開発の実態を探るため、メキシコ政府が指定する「神秘的集落」であるプエブラ州チョルーラで調査を進めた他、メキシコ州マリナルコでの予備調査を実施した。杓谷は、メキシコ、ユカタン州のチチェン・イツァ遺跡公園において、観光に関する諸ステークホルダーと地元露店商の対応について調査を行った。併せて、近隣2カ所の遺跡公園における観光インフラの進展状況について観察した。禪野は、メキシコ市内の旧先住民村落、サン・ベルナベ・オコテペク地区およびサン・ヘロニモ・リディセ地区において調査を行った。前者には復元された先スペイン期の遺跡が存在するため、住人によるその資源化について考察した。
藤掛は、パラグアイのグアラニー語の変容や法的変遷について現地調査を行った。また、伝統工芸品ニャンドティ(蜘蛛の糸)の植民地時代以来の変化に関する資料を収集した。パナマのノベブクレに関する先行資料を読み進めた。本谷は、グアテマラの中西部高地とメキシコのチアパス高地にて、先住民女性の衣文化に見られる紋様見本帳の影響と流布状況、見本帳の紋様を使った織布の生産・流通に関するフィールド調査を行った。

2014年度活動報告

10月に国立民族学博物館で研究会を開催し、分担者の研究計画と進捗状況を確認した。各分担者の調査概要は次の通り。鈴木は、メキシコ国立人類学博物館、マヤ世界大博物館、グアテマラ国立考古学民族学博物館、イシュチェル先住民族衣裳博物館等にて展示内容を調査し、先スペイン時代の文明と現在の先住民族文化の関連性がいかに表象されているかを分析した。
井上、杓谷、禪野、小林(研究協力者)はメキシコで調査を行った。井上は、クロニカ(年代記)およびクロニカ研究資料を収集し、その読解・分析に着手した。またメキシコ市の先スペイン期関係の史跡を訪問して、その現状把握に努めた。杓谷は、ユカタン州のチチェン・イツァ遺跡公園で地元露店商の不法侵入問題の現状を観察し、行政担当者へのインタビューを実施した。禪野は、メキシコ市および近郊の「旧先住民村落」に関する文献研究と並行して、メキシコ市南西部で、復元されたピラミッドの管理、利用方法を調査した。小林は、観光開発・経済推進事業に関連した文献調査、および現地での予備調査を実施し、「神秘的集落」の認定を受けた3箇所(プエブラ州チョルーラ等)を次年度以降の調査地として選定した。
本谷は、米国東海岸の博物館(ペンシルヴァニア大学と国立アメリカ先住民博物館)にて、19世紀末から20世紀初頭にかけてのグアテマラ・マヤ先住民族女性の衣裳の変遷を観察・記録し、既存の研究データと比較した。
工藤は、チリの先住民族マプーチェに関する文献資料を基に研究を進めた。国内の図書館収蔵文献と、チリ国立図書館収蔵の文献を中心に整理し、次年度に現地での調査を行うためのリスト等を作成した。
藤掛は、パラグアイにて、現地の文化人類学者、言語学者、メディア関係者への聞き取り調査ならびに農村部における調査を実施し、グアラニー文化に対し「憎しみと愛」が混在することが明らかにした。