国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

多世代共生「エイジ・フレンドリー・コミュニティ」構想と実践の国際共同研究(2014-2016)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(B) 代表者 鈴木七美

研究プロジェクト一覧

目的・内容

急速な高齢化を遂げつつある現代社会において、高齢者ケアの財源を始めとして多くの問題が提示されてきた。特に高齢期特有の緊急の課題は、(1)高齢化の過程は全ての人々に関わるが、健康・生活における支援の必要性は多様であること、(2)様々なニーズに対応するには、「施設か在宅か」という体制では十分ではなく、様々な選択肢の中から高齢者が生活の拠点を選び、必要に応じて容易に変更可能なこと、(3)高齢期に至って移動や変動という「異文化体験」に晒される高齢者の活動を支えて力を引き出すことや、多様な分野の人々のネットワーク形成と連携を構築すること、である。
幾度となく環境の変化を経験し、多様なニーズをもつ高齢者が安心し充実して暮らすことができる場という観点から、多世代共生「エイジ・フレンドリー・コミュニティ」創出に向けた構想と実践の国際比較を、領域横断型国際共同研究により推進する。

活動内容

2016年度活動報告

エイジング研究と社会的包摂に関連し、高齢者のニーズに応える環境形成は全ての世代の人びとが暮らしやすい環境に繋がるという「エイジ・フレンドリー・コミュニティ」構想に基づく実践に関する補足調査と情報整理を行い成果を公開した。
1) 国際共同研究者と共に、「第53回国際住みやすい都市会議」(ローマ)で、基調シンポジウム「The Age-friendly Community Movement: Inclusion Small Change, and the Right to the City」を開催し、発表"Creating an Age-friendly Community in Japan"を行った。
2) 国際学会「応用人類学会第76回大会」で、グローバルなテーマに関するラウンドテーブル「応用人類学とエイジング」で発表"Aging in place in Japan: The Roles of Anthropologists and Caregivers"を行った。
3) 米国におけるエイジ・フレンドリー環境としてのコモンズに関する比較調査・情報収集を国際共同研究者と共同で実施し、4)の国際シンポジウムの準備会議を行った。
4) 国際共同研究者・国内共同研究者・研究協力者とともに、公開国際シンポジウム「エイジフレンドリー・コミュニティ――変わりゆく人生を包みこむまち」を開催し、趣旨説明と発表「ナラティヴと生のリズム:スイスの多世代対象複合型生活施設におけるエイジフレンドリー・コミュニティ」を行った。このシンポジウムに関して新聞報道もなされ広く内容を一般に発信した。発表と議論の成果を、論文集(英文・和文)として出版する予定である。

2015年度活動報告

エイジング研究と社会的包摂に関連し、高齢者のニーズに応える環境形成はすべての世代の人々が暮らしやすい環境に繋がるという「エイジ・フレンドリー・コミュニティ」構想の動向に関する情報を収集・整理し、この視点に関わる調査研究を進め成果を公開した。
1)国際共同研究者のフィールド(米国)におけるエイジ・フレンドリー環境に関する比較調査、高齢者の自宅居住/継続ケア退職者コミュニティ(CCRC)居住の調査など、国内外にて調査を遂行した。
2)高齢化社会に関する実践的研究において注目されている「エイジ・フレンドリー・コミュニティ」というタームについて、日本文化人類学会において検討した。アメリカ老年学会第68回年次大会(米国・オーランド、2015年11月20日)において、東日本震災後の高齢者の生活支援に関し、5年間継続してきた実践者との共同研究成果を発信した。応用人類学会第76回年次大会(SfAA2016)(カナダ・バ ンク―バー、2016年3月31日)のシンポジウムにおいて、高齢者研究における現場実践者と文化人類学研究者の協働の意義について検討した。文化人類学の現代的な効用を学生や一般市民に発信する日本文化人類学会主催公開シンポジウム「人類学的想像力の効用」(金沢市しいのき迎賓館 11月8日)において、高齢者の生活支援と想像力に関わる発表(招待講演)を行った。
3)研究成果を国立民族学博物館において来館者と共有する目的で、公開国際セミナーを2回、公開研究セミナーを1回開催した。
4)高齢者の生活に関する文化人類学、社会学、福祉政策学の学際的研究成果の公開として、2014年に企画開催した高齢者の住環境開発に関する人間文化研究機構シンポジウム「高齢期の多様な住まい方とウェルビーイング」(イイノホール(東京) 2014年3月8日)の成果をまとめ、人間文化研究機構のウエブサイトで広く一般に発信した。

2014年度活動報告

1)「エイジ・フレンドリー・コミュニティ」に関わる現地調査、資料整理:
平成25年度までに実施してきた、高齢者ケア拠点等での予備調査と現場実践者との共同研究体制の整備をもとにして、高齢者とケア者との生活の課題に関し、情報収集や資料整理を進めた。また、米国において、国際共同研究者3名とと研究の進展について検討し、米国の地方都市を拠点として進められてきたエイジ・フレンドリー・コミュニティ活動について、現地共同調査を行った。
2)研究課題の共有と発信―研究集会の開催:
「エイジ・フレンドリー・コミュニティ」研究の現況と本研究の意義を議論する目的で、国際人類学民族科学連合会議(IUAES2014)にて、国際パネル「『エイジ・フレンドリー・コミュニティ』構想と実践の比較研究」(エイジング・高齢者委員会指定パネル 於幕張メッセ)を開催した。また、パネルに参加し発表した研究者、コメンテータとともに、さらなる研究協力関係の充実と研究計画に向けて議論を深めた。
3)研究課題の共有と発信―国際学会:
近年「エイジ・フレンドリー・コミュニティ」に関する研究・実践が蓄積されてきた米国において、アメリカ老年学会、アメリカ人類学会で情報収集した。さらにアメリカエイジング学会でシンポジストとして、日本のエイジ・フレンドリー・コミュニティに関する研究成果を発信し議論を深めた。
4)研究課題の共有と発信―論文集等の企画:
本年度の成果を含めた内容を、学会誌および書籍にて発表した。また、2)3)の成果を共有するために、英文論文発表の企画に着手した。
5)研究課題の共有と発信―ホームページ・リポジトリ等の活用:
国立民族学博物館を拠点として、本研究の経過を広く発信する準備を進めた。