国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

インド災害後のローカル文化再編におけるコミュニティ資源としての「手工芸」の意義(2014-2017)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 金谷美和

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は、インド、グジャラート州カッチ地方において、2001年の地震で甚大な被害を受けた更紗の生産者たちが、危機的状況にあった生業を復興・維持するために新村を建設途上であるという事例を対象にして、「手工芸」をコミュニティ資源として、ローカル文化の再編を行っている過程を明らかにすることである。新村建設を契機として、在来の染色技術やデザインが再編され、カッチ地方全域に散らばっていた染色業の拠点が「産地」として統合されていく経緯を示すとともに、在来技術による染色品生産が「手工芸」という概念と領域に包含されていくこと、「手工芸」がグローバルに通用する記号となって、国内外の災害支援を引き寄せ、支援のネットワークをつくりあげることによって新村建設の推進力となったことを示す。

活動内容

2017年度実施計画

(研究課題1)に関わる研究を行う。
アジュラク村の建設過程について、組合代表への聞き取り調査を継続する。調査期間は8月~9月に20 日間である。
研究課題1,2を合わせた研究成果の報告書の作成と出版のための編集作業をすすめ、研究補助者がその作業を分担する。また、国立民族学博物館の機関誌執筆を通して、広く一般に研究成果を還元する。

2016年度活動報告

本研究は、自然災害後のローカル文化の再編について明らかにすることを目的に、インド、グジャラート州において2001年の地震で甚大な被害を受けた更紗の生産者たちを対象に文化人類学的研究に取り組んでいるものである。生産者たちは、危機的状況にあった生業を復興・維持するために組合を結成し、新村を建設して生産基盤の移転をはかっている。その過程で彼らは、「手工芸」をコミュニティ資源として活用することで、国内外の支援をあつめ、新村建設を成功に導いた。本年度は、インドにおける現地調査を1回(3月26日~4月5日)実施した。さらに、これまで調査をおこなった被災村やその周辺で生産されてきた染織品資料についてのデータ整理をおこなった。また、東日本大震災の被災地において手仕事を媒介として住民の復興にとりくむ事例を見学した。
前年度までの研究において、在来技術による染織品「アジュラク」を新村の名称につけたことが新村建設の推進力となったことを示したのであるが、今年度の研究では、あらたに次の2点をすすめることができた。①在来技術に依拠した多様な染織品のうち、「アジュラク」という特定の染織品だけが、新村復興のシンボルとなった背景を明らかにした。②「アジュラク」の知名度があがるにつれて、生産需要が増加し、雇用創出につながっていることを明らかにした。雇用を求めて周辺村から新村への移住希望者があらわれるなど、染色産地として安定した発展がみられることを示すことができた。それによって、自然災害被災から村の建設にいたる、ローカル文化の復興にかかわる民族誌的データを、一部を除いてほぼ包括的に収集することができ、民族誌の執筆にとりかかることができた。また、招待講演などの研究成果のなかで、東日本大震災の事例と相対化し、本研究のテーマの意義を示すことができた。

2015年度活動報告

本研究は、インド、グジャラート州において2001年の地震で甚大な被害を受けた更紗の生産者たちが、危機的状況にあった生業を復興・維持するために新村を建設途上であるという事例を対象にして、「手工芸」をコミュニティ資源としてローカル文化の再編を行っている過程を明らかにすることが目的である。本年度は、インドにおける現地調査を8月5日~26日に実施した。
課題1は、新村建設を契機として、カッチ地方に散在する染色業拠点が「産地」として統合されていく経緯を示すことであった。いくつかの染色業拠点が消滅し、旧村と新村に統合されつつある経緯を示すデータを収集できたことが成果である。また世帯調査から、1998年に調査した染色業者が、震災後に旧村や新村に移住していることが判明した。今回の調査データを、当時のデータと照合・分析することで、染色業の具体的な変化の諸相を明らかにするのが次年度の課題である。
課題2は、①在来技術による染色品生産が「手工芸」という概念と領域に包含されていくこと、②「手工芸」がグローバルに通用する記号となり、支援のネットワークをつくること、③そのネットワークが新村建設の推進力となったことを示すことであった。染織品資料編年の検討、復興に携わった複数のアクターへのインタビューを行い、コミュニティ資源としての「手工芸」のなかでも「アジュラク」が中心的存在であると明らかにした。在来技法による染色品生産が、「手工芸」という概念と領域に包含され、グローバルに流通する記号となっていること、それが震災復興に寄与したことを示す具体的なデータを収集できたことが本年度調査の成果である。
また、2011年の東日本大震災被災地における「手工芸」を活用した復興支援を見学したことで、災害後長期間にわたる本研究の重要性と意義について確認することができた。

2014年度活動報告

本研究の目的は、2001年に発生したインド西部地震で甚大な被害をうけ、生業を復興するために新村を建設途上の更紗(染色品の一種)の生産者たちが、「手工芸」をコミュニティ資源として、ローカル文化の再編を行っている過程を明らかにするというものである。平成26年度は、9月に13日間、2月に23日間、インドにおいて現地調査を行った。そして、次のことを明らかにした。
1.移住状況について生産者組合代表者にインタビューした。また、新村においてすでに移住している100世帯全戸の世帯調査を行った。それにより、新村への移住状況と、染色業の復興程度を明らかにするための基礎的データを得ることができた。
2.被災した旧村において、生産者にインタビューを行った。また、ブジ市役所において、産業用の井戸水利用に関して担当者から情報収集した。それにより、染色業復興の障害となっている地下水位の低下の進行程度について明らかにすることができた。
3.新村において、地下水位の低下を克服するための染色排水の浄化システムの設置が計画されている。組合と支援NGOの双方から聞き取りを行うことによって、浄化システムについて情報を収集した。
4.現地社会において「手工芸」生産者の支援をおこなっているNGOのシンポジウムに出席し、支援状況について担当者から情報収集を行った。また、「手工芸」生産者の支援をおこなっている別のNGOの代表者にインタビューをおこなった。それにより、1970年代から現在に至る、現地社会の「手工芸」支援について明らかにするためのデータを収集することができた。以上の現地調査で得た研究成果を、9月に民族芸術学会の研究大会、10月に岡山大学で開催された研究会において発表をし、それぞれ参加者との活発な議論をすることができた。