国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

現代イタリア社会におけるローカリティに関する文化人類学的研究(2014-2017)

科学研究費助成事業による研究プロジェクト|基盤研究(C) 代表者 宇田川妙子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

グローバル化が進む現在、ローカルなものに再び注目が集まっているが、ローカル・コミュニティについては、その研究の衰退以降、本格的な再考論には至っていない。しかしローカル・コミュニティの復興の動きは世界的に盛んであり、その意義は消滅したわけではない。この問題を適切に考察するためには、ローカル・コミュニティを(単なる所与ではなく)人々のローカリティという感覚の実体化と捉え、むしろ着目すべきはこのローカリティであると見なし、今やグローバル社会、国家等と密接につながっている生活の中で、それがどう位置づけられ生産されているかを考える「ローカリティ研究」へと転換する必要がある。
本研究は、そうした新たな研究領域の構築を目指すため、そのモデルケースとしてイタリア社会に着目し、イタリアのある町の事例を詳細に調査研究しながら、理論的にもローカリティにかんする研究を進めていく。

活動内容

2017年度実施計画

最終の29年度は、R町やその周辺地域での補足的な現地調査を行うとともに、町作りの成功例と言われているグレヴェ・イン・キアンティでも調査を行い、イタリアの町づくりの現状に関する情報や知見を広げる。そしてこれまでの研究成果をまとめるとともに、ローカリティ研究の次の段階を目指した組織やネットワーク作りも行う。たとえば、同様の関心を持つ研究者とともにローカリティ研究に関する共同研究会を組織するとともに、イタリアの研究者とも連携を強めるために、イタリア語での成果発信をする。より詳細には以下の通り。
1)イタリアでの調査(3週間):今回、現地での調査は基本的に補足的なものである。ゆえに28年度までの調査結果を十分に整理した上で、不十分な箇所を中心に、R町およびローマなどのR町出身者の移住先での現地調査に10日を費やす。そして近年のイタリアでの町作りのモデルの一つ(スローシティ運動)と言われているグレヴェ・イン・キアンティにてその実態を調査し、昨今のイタリアの町つくり運動の概要についてもヒヤリングを行う(10日間)。
2)関連領域の研究者との意見交換や文献研究は、前年度同様に続行する。このため、国内出張は2回予定している。また、イタリアでの調査時に、イタリア人研究者との意見交換も積極的に行い、調査結果をイタリア語で発信していくための下地作りをする。
3)4年間の調査研究の結果をとりまとめ、論文を執筆し、国立民族学博物館の『研究報告』等に発表する。また、その一部をイタリア語でも発信する。さらに、ローカリティ研究の可能性をさらに広げていくために、他地域の研究者とともに、国立民族学博物館の共同研究会に応募するという形で共同研究会を組織する。

2016年度活動報告

本研究3年目は、前年度同様、①現地調査の続行、②その整理と分析のための理論的考察、に焦点を当てた。
①昨年度同様、ローマ近郊のロッカプリオーラという町にて、約2週間、彼らのローカリティ意識の変容に関する調査を行った。今回は、世代間格差ともに、住民の出身地にも焦点をあてた。そのなかで、親が町外出身者である、いわば「よそもの二世」の若者たちの町づくり運動という興味深い事例を調査し、ローカリティとアイデンティティの複雑な関係をみることができた。また、近隣の町々でも調査を開始し、まずはその概要(祭りなどの町づくり運動)を把握した。
②これまでの調査からは、イタリアでも人・モノ・情報の移動は激しくなっているが、町というローカルな場への帰属意識は強く維持されていることが分かっている。その考察のため、引き続き、空間論、グローバル/ローカル論にかんする理論的な考察を深めた。またその過程で、イタリアの場合、この問題に具体的に取り組むためには「食」に注目することが有益であることも浮かび上がった。ゆえに食という視点から以上の議論にかかわる先行研究の渉猟を開始し、これまでの調査資料もその視点から再考する作業を始めた。また、ナポリのUniversita degli Studi Suor Orsola Benincasa di Napoliで同じ観点から研究している研究者とも意見交換をし、今後調査協力を行うこととした。なお、この問題にかかわる平成28年度の成果の一部は、シンポジウムや講演会等で公表する機会を得た(研究発表欄参照)。

2015年度活動報告

平成27年度は、本研究の2年目として、①現地調査の本格的な推進、②これまでの調査資料および理論的な考察に関する中間的な総括、の2点に焦点を当てた研究を行った。その成果は次のとおりである。
①昨年度に引き続き、ローマ近郊の町にて約3週間にわたってローカリティにかんするフィールドワークを行った。今回は世代および性別の相違に焦点を当て、より若年世代にインタビューを重ねていき、ローカリティ意識の変化の具体的な内容、その変化を引き起こす要因・背景などを探った。また性別に関しては、婚姻による移住の多少という問題だけでなく、両者の生活スタイルの違いがそれぞれのローカリティ意識の差に大きく作用しているのではないかという推測も出てきたが、これについては今後、世代や職業などの他の変数によるクロスチェックが必要となる。これらは引き続き、次年度の調査課題とする。
②当調査町における約30年前の調査資料をローカリティという視点からもう一度精緻に振り返ることによって、当時の人々のローカリティ意識を分析、再構成した。そして、その成果を本年度に発刊した著書『城壁内からみるイタリア』の5章としてまとめた。彼らのローカリティ意識は、これまでもカンパニリズモと呼ばれ、いわばイタリア文化の一つとして注目されてきた。しかしそれが、単なるローカル・アイデンティティではなく、彼らの生き方、人生の捉え方そのものと密接にかかわっていることを明らかにした。もちろん、その考察はいまだ推論の域を出ない部分も多く、変容についても考察が不十分である。しかしこの成果は、ローカリティのもつ意味(およびその研究視座)をさらに広げていく具体的な契機になる。ゆえに次年度以降、このイタリアでの議論をより一般的なローカリティ研究にもつなげた考察も積極的に行っていく。

2014年度活動報告

平成26年度は、本研究の1年目として、理論的な研究においても、現地調査においても、それぞれ概要を把握することに努めた。

1.理論的研究:
ローカルコミュニティおよびローカリティに関して、人類学をはじめとする人文社会諸科学における基本的な文献を収集・分析し、その変遷や現状の問題点をできるだけ把握することに努めた。中でも、昨今の空間論をリードする地理学の業績に焦点を当てた。また、イタリアの事例にかんしては、これまでの民族誌を渉猟し、そこでのローカルコミュニティおよびローカリティの描き方を、国家、近代化、グローバル化などとのかかわりからの分類・整理する作業を行った。この作業は、今後イタリアのローカリティを考えるうえでの基本的な資料になるとともに、人類学がこれまでローカリティの問題をどう描いてきたかを探る上でも貴重な資料を得ることができた。
2.イタリアのローカリティにかんする現地調査:
イタリアのローカル・コミュニティにおけるローカリティの意味を具体的に探るため、10月に約4週間、イタリアで現地調査を行った。その目的の一つは、これまで調査を続けてきたローマ近郊のR町での調査であり、そこでは、彼らのローカリティ意識の変遷を探るため、まずは約30年前の最初の調査からの変化を総合的に調査・把握した。R町の近隣の町々における資料の収集も開始した。また、この事例を相対し、さらには、イタリアにおけるローカリティ研究にかんする知見を深めるため、ローマ大学の人類学者と意見交換をした。その過程で、彼らとの間で今後の協力関係を視野に入れた関係が構築されたので、27年度には具体的な計画の策定に入るつもりである。