国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

聖地におけるスピリチュアルな体験と癒しの人類学的研究―現代のイギリスを事例に(2010-2012)

科学研究費補助金による研究プロジェクト|特別研究員奨励費 代表者 河西瑛里子

研究プロジェクト一覧

目的・内容

本研究の目的は次の二点である。<I>ある個人のスピリチュアルな危機からの回復を、聖地という特定の場所に焦点をあて、聖地と癒しの関係について、宗教的視点と医療的視点から分析する。<II>現代の聖地における新しい癒しのあり方を考察し、具体的な提言をおこなう。この二点を明らかにするため、現代の聖地として知られる英国のグラストンベリーにおいて、聞き取り調査と参与観察を実施する。

調査の中心は<I>である。当地を何らかの視点で聖地とみなし、当地に根ざして活動している四つの宗教的グループにかかわりをもち、スピリチュアルな危機を経験した人を対象とする。具体的には、危機のきっかけ、身体と精神に生じた症状、出会った実践とそれによる身体的な経験を、聞き取り調査と定期的な集まりにおける参与観察により明らかにする。その際、かかわっているグループとの関係、他のメンバーや町の住人との関係、グラストンベリーという土地との関係に注目し、当地に対する聖地としてのまなざし、癒しと関連している当地の要素を、各グループの間で比較検討する。<II>については、<I>で得られた知見をもとに、グラストンベリーにおいて癒しを体験する過程の共通点と相違点を明らかにし、聖地における癒しについて、総合的に明らかにしていく。その際、グラストンベリーへの訪問を一種のメディカル・ツーリズムと位置づけ、現代における新しい癒しのあり方を考察する。

活動内容

2012年度実施計画

昨年度までに実施したイギリスにおける調査で得られたデータを整理し、先行研究をまとめる。それと平行して、研究結果を取りまとめた論文を執筆し、各種研究会で研究成果を発表する。

発表、及び参加予定の研究会は以下の通りである。
毎月(2回) 「トラウマ経験と記憶の組織化をめぐる領域横断的研究」研究会(以下トラウマ研)(京都大学人文科学研究所)に参加(6月に発表予定)
7月、12月、3月 スピリチュアリティ情報交換会議(SPIEM)にて発表(東京、聖心女子大学)
7月、11月 「宗教とツーリズム」(「宗教と社会」学会プロジェクト)に参加

論文執筆の予定は以下の通りである。
5月~6月 スーフィズムと癒しに関する投稿論文の執筆
7月~9月 グラストンベリーの地元民と移住者に関する論文の執筆(『宗教と社会』へ投稿)
10月~12月 女神運動についての文献資料の読み込み
1月~3月 女神運動におけるつながりと癒しに関する論文の執筆(『文化人類学』へ投稿)

2011年度活動報告

本研究は、1)ある個人のスピリチュアルな危機からの回復を、聖地という特定の場所に焦点をあて、その場所とのかかわり方と癒しの関係について、宗教的視点だけではなく、医療的視点も取り入れて分析する、2)現代の聖地における新しい癒しのあり方について考察し、メディカル・ツーリズムという視点も取り入れて、具体的な提言をおこなうことを目的としている。本年度は以下のような活動を実施した。

  • 研究成果の発表
    2010年度までの現地調査の成果をもとに、本年度は日本文化人類学会や「宗教と社会」学会、国立民族学博物館や京都大学の研究会で合計10回の発表をおこなった。また、2012年刊行予定の世界宗教学事典にも執筆をおこなった。現在、フィールドワークに基づいた論文を執筆していて、国立民族学博物館の紀要、京都大学人文科学研究所の紀要、『文化人類学』などに投稿する予定である。
  • 宗教とツーリズム研究会での発表(科学研究費補助金使用)
    3)の調査に先立ち、昨年度までの調査で得られていた地元民と移住者の関係をまとめて、発表をおこなった。その後、宗教と観光に関する知見を深め、研究者と交流するため、継続して参加した。
  • 英国グラストンベリーでのフィールドワーク(科学研究費補助金使用)
    2011年9月:2005年から継続的に実施している、イギリスのグラストンベリーにて、フィールドワークをおこなった。昨年度は、癒しに携わる移住者を対象にしていたが、今年度の調査では、彼らを受け入れることになった、グラストンベリーの地元住民にインタビューをおこなった。また、サマーセット州立田園生活博物館所蔵の、1980-90年代に地元の高齢者に行われたインタビュー資料の調査もおこなった。
  • 「トラウマ経験と記憶の組織化をめぐる領域横断的研究」研究会への参加(科学研究費補助金使用)
    辛い体験とそこからの回復について、知見を深め、情報収集ならびに調査をおこなうため、参加した。
2010年度活動報告

本研究は、1)ある個人のスピリチュアルな危機からの回復を、聖地という特定の場所に焦点をあて、その場所とのかかわり方と癒しの関係について、宗教的視点だけではなく、医療的視点も取り入れて分析する、2)現代の聖地における新しい癒しのあり方について考察し、メディカル・ツーリズムという視点も取り入れて、具体的な提言をおこなうことを目的としている。本年度は以下のような活動を実施した。

  1. 研究成果の発表
    • 2009年度までの現地調査の成果をもとに、エストニアでの医療系の国際学会で報告し、ポーランドのAdama Mickiewicza大学人類学部の定期セミナーに招待されて、講演した。また2006年度の現地調査の結果をもとにした論文が、書籍として刊行される予定になっていて、2011年刊行予定の世界宗教学事典にも執筆をおこなった。
  2. 英国グラストンベリー等でのフィールドワーク(科学研究費補助金使用)
    • 2010年4月:エストニアとポーランドにて、報告を行った。
    • 2010年5月~6月:人々の日常生活の背景を知るため、インタビューや州立図書館での資料収集をもとに、町の歴史や給付金制度等の調査をおこなった。また、ニューエイジ用語に対するアンケートをおこなった。
    • 2010年7月~12月:現地にて1-2週間おきに開催される、女神運動とスーフィズムの、主に女性の集まりに継続して参加し、日常の文脈の中で、人々の癒しの体験について聞き取りをおこなった。その場で出会った人々とは個別にインタビューも実施した。
    • 2011年1月~2月:帰国の準備。イスラエルを訪問し、聖地についての見聞を深めた。また、ヒーリングやエコロジーを推進しているキブツに滞在し、調査を実施した。日本に帰国後、資料の整理をおこなった。
    • 2011年3月:聖地や巡礼に関する文献研究をおこなっている。