国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

国立民族学博物館調査報告(Senri Ethnological Reports)

No.55 藤井龍彦教授退官記念シンポジウム報告書―― 「歴史の山脈 ―日本人によるアンデス研究の回顧と展望―」

2005年5月30日刊行

関雄二・木村秀雄 編

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刊行の目的および意義

本書は、昨年2月に開催された藤井龍彦教授退官記念シンポジウム「歴史の山脈─日本人によるアンデス研究の回顧と展望─」の報告書である。シンポジウムそのものは、研究の社会還元という視点から一般公開という形がとられたが、その内容は学術的に高度であり、さらに考古学、民族学、歴史学等総合的にアンデス地域を扱った学術刊行物が少ないことを考えると、報告書としてまとめる意味は大きい。
とくに本書の意義は、日本におけるアンデス研究を回顧した点にある。1958年に、東京大学文化人類学教室が主体となって発足した調査団が、南米アンデス地帯に足を踏み入れて以来、日本のアンデス研究は、1昨年で45年を迎えた。この間、考古学、民族学、エスノヒストリーなどいわゆる人類学の分野を中心に多くの業績があげられ、国際的に高く評価されている。半世紀を迎えようとする今日、改めて、これらの成果について学術的に回顧することは、将来的課題を展望することにつながると考えられる。
また、回顧のみならず、現在進行形で実施されているアンデス研究の概要を共通テーマの下で発表し、論議した点も重要である。当初、総合的視点をもって多分野の専門家が参加したアンデス調査団も、年を経るに従い、次第に専門化が進み、調査も個別化してきた。各分野における研究成果の重厚さは十分に認めるところではあるが、一方で、今日改めて求められているのは、分野横断的な総合的視座に立つ研究モデルである。そのためシンポジウムでは、研究分野を超えた対話が可能になることを前提に、共通テーマとして今日の文化人類学では必須要素ともいうべき「歴史性」をとりあげた。これらは第2部としてまとめた。
さらに執筆者には、1999、2000年度に実施された「中央アンデス造形芸術の研究」(研究代表者藤井龍彦)2001、2002年度に組織された本館共同研究会「ラテンアメリカ社会経済システム再考」(研究代表者木村秀雄教授)班員がほぼ全員ふくまれ、論文も、その機会に発案され、練り上げられたものが数多く含まれるため、本書は過去の共同研究会の成果報告書としても位置づけられる。

 

目次

序文
 ……………… 関雄二・木村秀雄
第1部 アンデス研究の半世紀
日本人のアンデス先史学45年
 ……………… 大貫良夫
日本人によるペルーの考古学研究の重要性
 ……………… ペーター・カウリケ(関雄二訳)
アルゲーダスの亡霊
 ……………… 友枝啓泰
第2部 歴史性をさぐる
景観の創造と神話・儀礼の創作──インカ帝国の首都クスコをめぐって
 ……………… 坂井正人
クロニカとアンデス史研究──「ナポリ文書」をめぐって
 ……………… 染田秀藤
アンデス植民地美術論における「メスティソ(混血)」概念──自己と他者の表象の屈折
 ……………… 岡田裕成
アンデスのラクダ科動物とその利用に関する学際的研究──文化人類学と遺伝学の共同
 ……………… 稲村哲也・川本芳
クスコ県カルカ郡のアシエンダと先住民共同体
 ……………… 木村秀雄
暴力の時代の歴史化をめぐる断章──証言と余白
 ……………… 細谷広美
樹木に現れた磔刑のキリスト──セニョール・デ・ウィンピリャイ信仰の誕生
 ……………… 加藤隆浩
創り出す力──ペルーの民衆芸術をめぐって
 ……………… 藤井龍彦
〈半西洋〉文化研究への〈半西洋〉人の貢献──『歴史の山脈』を越えて
 ……………… 落合一泰
 

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