国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

国立民族学博物館調査報告(Senri Ethnological Reports)

No.59 クック時代のポリネシア――民族学的研究

2006年2月24日刊行

石川榮吉

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刊行の目的および意義

本稿の主目的は、南太平洋の諸社会が西欧と接触し、島の人びとがキリストの宣教団や貿易商などと直接に関係をもちはじめた、18世紀後半から19世紀初頭の社会・文化的状況について、民族学的視点と方法によって明らかにし、オセアニアの人類学的研究に寄与しようとしている。
南太平洋、特にポリネシア社会においては、キリスト教の受容が「伝統社会」、固有の文化や慣行、そして世界観をも急激に変容させ、多くのものを喪失させるなど多大な影響を与えた。この1900年をはさむ数十年の時代は、ポリネシア社会では大変動が起きた時期である。本書は、その時代にポリネシア社会を訪れた探検者や科学者、あるいはそこに長・短期間居住した宣教師や「浮浪白人」などの記録に基づいて、当時の社会と文化について記述しており、次の二つの点で高い学術的意義がある。 1.当時のポリネシア社会に見られた、社会・政治構造、王政と王の葬送慣行、人の死とその追悼習慣、そしてビーチコウマー(船からの離脱白人)の戦争や国土統一へのかかわりなどについて、ハワイ、タヒチ、サモア、トンガなど、社会ごとの特徴と諸社会との共通性を比較研究によって明らかにし、その差異を説明する仮説を提示している。
2.欧米人のポリネシア人の姿態や慣行に対する見方、いわゆるオリエンタリズム的なポリネシア観に対して、批判的立場から個々の事象のコンテキストや歴史的背景を考慮し、蓋然性の高い(学問的)解釈を行っている。
これら2点に加え、オセアニア学のパイオニアとして著者は、第二次世界大戦後の日本の学会におけるオセアニア研究の歴史を回顧しており、オセアニア学の動向を知る上で重要な論考も含まれている。(須藤健一)

 

目次

序文
1 概観・クック時代の太平洋諸島民
2 タヒチ首長国の構造
3 演出された無秩序
4 人の死をどのように悼むか
5 ポリネシアのビーチコウマー
6 日本人が初めて見たポリネシア人
7 ニュージーランド・マオリの家族
8 マルケサス諸島民の性関係
9 『環海異聞』より
10 「太平洋の時代」は到来するか
11 日本のオセアニア学
参照文献
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