国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

客員研究員の紹介

韓福眞さん
ハン・ボクジン

紹介者:小林繁樹(文化資源研究センター)
食文化の体験型博物館を構想
朝鮮宮廷料理のマスター

ナサン・バヤル氏は、中国の内蒙古大学に2007年に新しく創設された民族学与社会学学院の副院長と民族学部主任を務めるモンゴル族研究者である。

韓福眞さんは韓国ソウル生まれ。梨花女子大学家政学部を卒業し、高麗大学大学院で食品工学を専攻しました。学生の時から韓国の重要無形文化財第38号「朝鮮王朝宮中飮食」技能保有者(人間国宝)であり、実母である黄慧性教授から朝鮮王朝の宮廷料理を伝授され、1993年には国家認定技能履修者となりました。

大学時代から日本語を学び、30年前、大学卒業後初めて来日してから1年間、東京で日本料理を学ばれました。その後、韓国で宮廷料理を伝受する一方、米国料理学校(CIA)ル・コルドン・ブルー、外国人のためのイタリア料理学校(ICIF)上海飲食服務学校などで世界の料理を習い、また1983年から4年間は、日本の辻学園辻調理師専門学校で韓国料理担当の教授として韓国料理を教え、韓国料理のレストランでメニュー開発や調理教育をされておられます。

ソウル・オリンピックが開催された1988年に帰国し、伝統調理専門家を養成するために韓国で最初に設立された春川専門大学の教授になりました。また漢陽大学の食品栄養学専攻博士課程で学びながら、韓国食物史、世界の食文化、古料理書と宮廷宴会記録である「進饌儀軌」などを研究、20冊の著書と40編余の論文を発表し、1993年に理学博士の学位を取得されています。そして著書の『私達が知っておくべき韓国飲食百選1、2冊』(玄岩社、2000)で白霜出版文化賞を、『朝鮮時代宮廷の食生活文化』(ソウル大学出版部、2005)で大韓民国学術院優秀学術図書賞を受賞しました。

韓さんは研究意欲が旺盛で、食にまつわる事になら何にでも関心があり、1995年夏には大津にある叶匠寿庵の菓子工房で和菓子の研修を、1996年には日本酒の利酒師の資格を取得。2000年からは、韓国で長い歴史があり「味の故郷」と呼ばれる全州市に所在する、全州大学校の文化観光学部に創設された伝統飲食文化科の教授となり現在にいたっています。

また、世界の食文化の研究のためにヨーロッパ、アメリカ、アジアの30カ国を現地調査するとともに、韓国、日本、アメリカなどの食品や外食企業に韓国食に関連する商品やメニュー開発の助言をし、2006年夏には人気俳優ペ・ヨンジュンのプロデュースで東京にオープンした韓国伝統料理店「高矢禮(ゴシレ)」のフード・アドヴァイザーを務められてもいます。

食文化体験館建設に向けて

本館には2000年1月から2カ月間、外来研究員として来られ、「日本の伝統食文化」を研究しています。このように韓さんは、食文化探求一筋の研究者なのですが、今回の研究課題は「全州‘Epicurium(食文化体験館)構想のための実践的研究」です。この食文化体験館建設が全州市、全羅北道および韓国国家プロジェクトとして推進されていて、その基本構想を構築するための実践的研究をおこなうという計画なのです。もともと食に関する事業的活動を実践されているのですが、今回は博物館活動という新たな形態が加わるため、研究先を文化資源研究センターに求められたのです。そして韓さんは来日前の今年1月から2月に、食に関連する世界の主要博物館を訪問し、展示内容と運営などを調査し、来日してからもすでに何カ所かの、食に関する博物館で資料を収集し、調査を進めています。

韓さんは館内で韓国料理の研究会を開催されていますし、民博に来てすぐの5月6日には、民博開館30周年記念事業として開催されている「みんぱくウィークエンド・サロン研究者と話そう」にも早速、ご登場いただきました。「韓国の時節食─端午節によせて」と題して、1時間余りも大勢の来館者の方々にお話をし、質問に答え、交流を深めてもいます。

民博での研究のほかに、若い学生と混じって博物館実習にも出席されるなど、その研究への積極的な態度には敬服します。

離日される来年の2月末日まで、韓さんには満足できるよう研究を進めていただくと同時に、韓さんの研究熱心さと明るく積極的なお人柄で、民博も大いに学問的刺激を受け、多くを学ぶことになると期待しています。

韓福眞
  • 韓福眞 ハン・ボクジン
  • 韓国全州大学校文化観光大学教授。
  • 2007年3月6日から2008年2月28日まで国立民族学博物館外国人研究員(客員)教授。
  • 研究テーマは、「全州‘Epicurium(全州「食文化体験館」)構想のための実践的研究」。
『民博通信』第118号(p.28)より転載