国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

在学生の研究内容 玉山ともよ 平成21年度 海外学生派遣事業研究成果レポート 1


玉山ともよ

海外学生派遣事業研究成果レポート

1. 事業実施の目的
The 7th Southwest Indigenous Uranium Forumに参加すること

2. 実施場所
合州国ニューメキシコ州Acoma Pueblo保留地内Sky City Hotel & Casino

3. 実施期日
平成21年10月21日(水)から 10月29日(木)

4. 事業の概要
PHOTO.2  The 7th Southwest Indigenous Uranium Forum 第7回合州国南西部先住民族ウランフォーラムに参加した。このフォーラムでは、1940年代から現在に至るまでのウラン鉱山開発が北米先住民族社会へもたらした影響について議論が展開された。
 第1日目は、アコマ・プエブロ先住民でウラン開発問題についての研究者でもあるマニー・ピーノ博士が、フォーラムの全体の趣旨について説明し、アメリカ合州国で過去に起こったウラン鉱山開発の被曝による健康被害ならびに環境汚染について順次スピーカーを迎え報告がなされた。
  • サウス・ダコタ州のラコタ等平原先住民族の聖地ブラックヒルズにおけるウラン鉱山開発並びに過去のウラン鉱山の遺棄放置について
  • ニューメキシコ州ナヴァホ保留地東部におけるウラン鉱山開発の現状について
  • アリゾナ州グランドキャニオン地域に住むハバスパイ先住民族地域のウラン鉱山開発について
  • ネヴァダ州ショショーニ・パイユート先住民族地域における放射能廃棄物の放置問題について
PHOTO.3  次いで、日本よりチェルノブイリ原発事故の救援活動に携わり、現在は劣化ウラン弾兵器撲滅運動に携わっておられる医師振津かつみ氏と、ボリビア先住民族出身で平和活動家のマイヤ・ゴメス氏より国際連帯に向けてのスピーチが行われた。そしてその他にも多くの地元先住民族、またそれ以外の参加者よりコメントが寄せられた。とりわけアラスカのグィッチンで計画されている石油掘削と共に開発される予定のウラン鉱山の問題と、メキシコとアメリカの国境で多くの人権侵害を受けているトホノオダム先住民女性よりの報告も追加された。
 夜にはウランをこれからの社会は必要としているかについてのドキュメンタリー映画が上映された。
 第2日目は、下記のテーマについて報告が行われた。
  • ナヴァホ保留地東部で多くの被曝患者を診察してきた活動家でもある医師よりのこれからのエネルギー政策についての提言
  • ビッグマウンテンというホピとナヴァホ間の100年にわたる土地問題に携わる活動家より、食の自立、伝統的な薬草の知識等についての報告
  • 弁護士より過去のスペイン王と先住民族間の条約が現在にわたって国際法として有効であるとして先住民族自治権の問題と人権問題についての国際的な報告
  • ウラン鉱山開発地域における生物多様性の問題について
  • 先住民族ならびに非先住民族間の草の根ネットワーク活動の発展ツールについて
 そして夜には“The Return of Navajo Boy”の映画上映が行われた。
 第3日目は、ワシントンDC で活動しているNPOであるBeyond Nuclearよりアメリカのエネルギー政策等についての報告が行われ、次いで緑の党から副大統領候補として過去に2度選挙戦を戦ったこともある有名な先住民女性活動家ウィノナ・ラデューク氏が3日間の締めくくりとしてスピーチを行った。

5. 本事業の実施によって得られた成果
 今回の海外学生派遣事業によって得られた成果は主に下記である。
  1. 核問題に取り組む合州国先住民族の多くが、AIM(American Indian Movement)の影響を受けているということをあらためて確認できたこと。
    →AIMは50年代、60年代の公民権運動の流れを汲んで、70年代を中心に主に都市に住む合州国先住民族を中心に先住民族の権利回復運動を展開した。主催者のアナ・ロンドン氏は、元AIM活動家だった。
  2. 合州国先住民族環境NPOの現在の活動についてより深く知ることができたこと。
    →Indigenous Environmental Network (IEN)、The Seventh Generation Fund、Honor the Earth
    といった多くの団体が、環境破壊の影響を最も受けているのは先住民族であるとし、汚染者が環境を修復する義務があるということで、アメリカ合州国政府の責任を問うていた。
     地球温暖化問題においても、一見、二酸化炭素を排出しないとされる原子力発電は解決策とはならず、その燃料となるウランの採掘は、過去のウラン鉱山による放射能汚染の除去が未だ完全に終わっていない状況で、新たな開発を行うことは危険であるというコンセンサスがNPO間にある。
  3. 南西部のウラン鉱山開発を憂慮する市民のネットワークであるMASE(Multicultural Alliance for Safe Environment)の活動にフォーラム」準備段階から関われたこと。
    →MASEには5つの基幹となる組織がある。
    1. Bluewater Valley Downstream Alliance (ニューメキシコ州グランツ市近辺ミランの住民組織)
    2. Dineh Bidziil Coalition (ナヴァホ保留地全体でのウラン鉱山被害を考えるグループ)
    3. Eastern Navajo Diné Against Uranium Mining (ENDAUM) (ナヴァホ保留地東部のクラウンポイント地区とチャーチロック地区の地元先住民によるグループ)
    4. Laguna-Acoma Coalition for a Safe Environment (ラグナ・プエブロとアコマ・プエブロ先住民族有志によるグループ)
    5. Post-71 Uranium Workers Committee (全米被曝者補償法RECAの救済対象外となった1971年以降にウラン鉱山および関連施設で働いた労働者を調査サポートする組織)
  4. 先住民族の聖地開発について、多くの保留地等で地下鉱物資源(石油、ウラン、石炭)開発が行われ環境破壊と健康被害の影響が広範囲にわたりみられるため、民族の枠を越えて連帯しようとしていることを間近にみたこと。
    →テーラー山(ウラン鉱山再開発、ニューメキシコ州)
    →ブラックメサ(石炭再開発、アリゾナ州)
    →ビッグマウンテン(石炭開発、アリゾナ州)
    →ブラックヒルズ(ウラン鉱山開発、サウスダコタ州)等。
  5. ウィノナ・ラデューク氏による先住民族の自然・再生エネルギーによる自立と有機農業復興プログラムの提唱について学んだこと。
    →世界で一番のエネルギー消費国である合衆国において、国の予算を補助金漬けなっている原子力部門から自然・再生エネルギー部門へ移すために、保留地政府が率先して自然エネルギーを採用し、またグリーンジョブとしての有機農業を推進し住居圏内の食料自給率を高めることで、移送にかかるエネルギーを減らし、実質的な先住民族自治自立の実現を目指すべきだとした。
 以上、5つの点を中心に成果を得た。またフォーラムに参加したことで人脈が広がり、今後の博士論文執筆のための調査を行う際に有利になり、有意義な会議出席となった。

6. 本事業について
 本事業、特に学生派遣事業は、地域文化ならびに比較文化の両専攻に在籍する学生にとって、フィールドワークを行う上で大変貴重で恵まれた機会であり、また欠かせないものである。あえて希望を言うのであれば、私はこれまで常に海外フィールドワークにおいて幼い子どもを伴っており(今回の場合は1歳児を連れて)、また伴わなければフィールドワークが可能にならない状況を抱えており、子どもの渡航費等は全て自分でまかなってきた。周りからはこの当然と思われる事柄が、往々にして私にとって多大な負担となってきたことは否めない。とりわけ子どもを3人もつ母親にしてみると、経済的な負担のみならず、保育を誰に頼むか等、子ども一人一人に対して気を配る必要が出てくる。よって子どもを伴うようなケースがある場合、家族手当のようなものがわずかでもあると大変有り難い。例えば学会に参加するような時に、託児に預ける際の費用をカバーできるであるとか、何らかの補助があることで、現在の切実な状況が少しでも改善されるのではないかと思う。