国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

在学生の研究内容

更新日時:2020年6月11日

山本恭正YAMAMOTO Yasumasa

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世界文化遺産に登録された熊野参詣道のコースである馬越峠にある馬越不動滝・馬越不動尊

専攻

比較文化学専攻

指導教員

主指導教員:飯田卓/副指導教員:関雄二

研究題目

地域社会における文化遺産概念とその意味作用について―文化的景観「信仰の山」を事例として

研究キーワード

文化遺産、熊野、グローバル化、聖地

研究の概要

2004年7月7日、ユネスコの第28回世界遺産委員会(中国・蘇州)において「紀伊山地の霊場と参詣道」が文化遺産として「世界遺産一覧表」に記載された。その特色は文化的景観を前面に押し出したことにある。申請時の資産名「紀伊山地の霊場と参詣道および周囲の文化的景観」が示すように、遺産全体として「信仰に関連する文化的景観」として構想されていた。国内法(文化財保護法)による分類では、文化的景観は遺跡である霊場(吉野・大峯、熊野三山、高野山)や、遺跡と景観として参詣道(大峯奥駈道、熊野参詣道、高野山町石道)、文化的景観(山、森、川、滝、温泉、田園、町並など)を含む。「紀伊山地の霊場と参詣道」の特徴は、道と霊場(聖地)と自然とが一体となっている点である。
遺産を活用する主体となるのが、語り部と呼ばれる人々である。語り部は特に熊野古道を歩く来訪者に同行しながらその歴史や意味についてある種の翻訳を行うなど、地域のことを観光客に伝える役割を果たしており、いわゆるガイドとしての性格が強い。関係する行政もそのことを期待して語り部の育成や、組織化を進めてきた。私がこれまで調査研究の対象としてきた三重県東紀州地域の「熊野古道伊勢路語り部友の会」では、行政の主導の下、1996~1997年にかけて語り部を一元化した組織の形成を進めてきた。また、地域によって違いはあるものの、彼らは有料の観光ガイドの役割を果たすだけではなく、多くの場合、無償で道の保全や清掃、見回りといった活動も積極的にこなそうとしている。さらに彼らは、その活動を通じて熊野古道の聖性を形作る。その意味で、彼らの遺産マネージメントは、世俗的な側面と宗教的な側面の双方にまたがっていると考えられる。
本研究では、世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に含まれる地域を対象とし、その地域に集まる語り部たちの言説を記録・分析する。そのうえで、語り部たちの活動に影響されながら、地域に住む人々がもつ地域イメージや文化遺産イメージが修正を受けるプロセスを描きだし、改めて語り部たちが世界遺産の現場で果たす役割を明らかにしたい。

研究成果レポート