国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

在学生の研究内容 吉村健司 平成21年度 海外学生派遣事業研究成果レポート

吉村健司

海外学生派遣事業研究成果レポート
1. 事業実施の目的

博士論文研究のための調査活動

2. 実施場所

マーシャル諸島共和国 マジュロ環礁

3. 実施期日

平成21年9月10日(木)から9月25日(金)

4. 事業の概要

本事業は、漁業開発下における住民の水産資源アクセスの変容に関する文化人類学的研究の調査の一環として行われた。調査地はマーシャル諸島共和国、首都マジュロ環礁であり、期間は2009年9月10日から9月25日までである。
マーシャル諸島は、オセアニアのミクロネシアに属する島嶼国家の一つである。広大な海洋を有しており、アメリカ、台湾、日本を中心に盛んに漁業開発が行われている。本研究は、マーシャル諸島において盛んに行われている漁業開発が、ローカル社会に対して、どのようなインパクトを与えるのか、また、現地の住民が、いかに開発を受容していくのかを明らかにすることが目的である。
申請者は、これまで沖縄県において漁業調査を行ってきた。そのため、マーシャル諸島での調査経験はなく、本事業による調査は、次年度以降の調査の予備調査となる。本事業では、以上の点を明らかにするために、首都マジュロにおいて、次の調査を実施した。

  1. マーシャル諸島における漁業開発、水産事業の動向
  2. マーシャル諸島における水産物の流通形態
  3. 現地資料の収集
  4. 今後の調査協力の依頼
  1. 漁業開発、水産事業の動向把握
     博士論文では、漁業開発の事例として、マーシャル諸島の南部に位置する環礁において実施されたケースを対象とする。しかし、本開発については、具体的な情報が少なく、実際に博士論文の対象となり得るかの確認を行った。また、マーシャル諸島共和国海洋資源局(MIMRA)において、マーシャル諸島の水産事業の現状について聞き取りを行った。
  2. 水産物の流通、消費形態
     本研究では、水産物への「アクセス」を見るために、漁業を「生産」、「流通」、「消費」の3つに大別する。このうち、本件は、首都における流通、消費に該当するもの調査である。マーシャル諸島における漁業開発の特徴の一つとして、地方環礁から首都マジュロおよびイバイ島への水産物流通網の整備が挙げられる。すなわち、首都における本調査の実施は、マーシャル諸島の漁業開発の現状を把握することに繋がる。
     今回は、国内最大規模のマーケットであるペイレススーパーマーケット(Payless Supermarket)の鮮魚店コーナーにおいて、午前、午後の2回、魚の入荷状況の観察を行った。また、鮮魚店の担当者および購入者に対して、購入魚種の傾向や購入場所、ペイレス以外での購入場所等の聞き取りを行うことで、首都における水産物の流通、消費形態の動向の把握に努めた。
  3. 現地資料の収集
     アレレ博物館、図書館において、マーシャル諸島に関する資料の収集を行った。博物館では、マーシャル諸島に関する文献等を販売も行っているので、一部資料については購入した。しかし、大半は在庫切れであったため、入荷次第、日本への送付を依頼した。図書館においても、マーシャルに関する文献資料のコーナーが書庫にあったため、そこに収蔵されている、漁業や文化に関する資料を中心に閲覧し、一部は複写した。
  4. 今後の調査協力の依頼
     マーシャル諸島は、土地所有について非常に厳格な地域である。そのため、首都や一部の観光地を除いて、気軽に調査で立ち入ることができない。そのため、有力者とのコネクションが必要となる。そこで、MIMRAを訪ね、紹介の依頼を行った。また、今後、お世話になっていく日本大使館の専門調査員やJICA職員なども訪ね、今後の調査協力を依頼した。
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5. 本事業の実施によって得られた成果

 本事業の実施によって、初めてマーシャル諸島に立ち入ることができ、研究の展望が見えてきた。また、後述するが、現地でのコネクションが築き上げられたことは、今後の調査にとって、何よりも大きな成果であったといえる。
 以下に、本事業の調査によって得られた成果を述べたい。

  1. 漁業開発、水産事業の動向
     マーシャル諸島では、これまで10件の漁業開発(JICA主体によるもの)が行われてきた。なかでも、博士論文では、マーシャル諸島南部環礁において行われたものを対象とする。しかし、その動向については、日本国内において明確な情報が得られなかったが、本調査により、計画の現状が判明し、対象とする漁業開発を、博士論文において適用することが可能となった。
     マーシャル諸島における漁業開発の内容の特徴は、フィッシュベースの建設、流通網の整備である。フィッシュベースについては、そのほとんどが利用されなくなってきている現状がある。また、流通網の整備は、対象となる環礁へMIMRAの回収船が巡回し、クワジェリン環礁かマジュロ環礁のどちらかに運搬されるといったものである。ただし、一部の回収船が稼動していない現状がある。また、漁業開発の一つとして各集落に動力船の導入が挙げられる。他地域の同様の開発では、集落内で共同利用の慣習がないために、動力船が使用されなくなる事例が報告されているが、マーシャル諸島では、ローカルルールを利用した動力船の導入が行われているため、現時点で他地域のような事例報告はないという。
     また、次年度以降に実施される開発についての情報を得ることができた。そのため、その開発については、リアルタイムで動きを追うことも可能である。
  2. 水産物の流通、消費形態
     首都において、消費者が水産物を購入するには、スーパーマーケット、小売店、フィッシュマーケットの3つが存在している。それぞれ、販売価格や魚種が異なりっている。また、水産物の独自の流通機構があることもわかった。
     マーシャル諸島において消費される魚種を把握するため、聞き取り、および魚の写真撮影を行った。帰国後、それらのデータをもとに同定作業を行った結果、49種が確認された。さらに、それらの魚種は、マーシャル国内で生活する、マーシャル人、アメリカ人、中国人、フィジー人、フィリピン人によって好まれる魚種の差があることもわかった。
     このことは、漁業開発の対象地の漁民に対する、漁撈手段や魚種選択などの変化をもたらす要因となりうる。また、資源管理の議論に展開する可能性を孕んでいる。
  3. 現地資料の収集
     図書館では、事前に調査した約60の漁法について確認することができた。
     その他、マーシャル諸島に関わる文献や論文のコピーの提供を受けたが、出典が不明であったものもあったことから、帰国後、検索を行った。その結果、非常に重要なモノグラフの入手に至った。
  4. 今後の調査協力の依頼
     MIMRAでは、漁業を通じた研究において、今後、協力していただける旨の回答を得る事ができた。また,JICAでは、次回以降の調査において、調査対象地における日本語和者の紹介をしていただけることになった。日本語和者からマーシャル語の習得を目指す。また、全般的なサポートとして、日本大使館の専門調査員の方からも調査協力を取り付けることができた。
     さらに、前マーシャル諸島共和国大統領のファミリーとも、コンタクトを取る事ができたため、その方を通したコネクションも、今後、非常に重要なものとなる。

6. 本事業について

 フィールドワークを行うことが求められる、文化人類学では、そのための経済的負担は大きい。実施者のように、調査フィールドを変更した場合、助成金等の申請においても若干、不便が生じる。その場合、調査地の全景がうまく掴めないまま、しばらく研究を進めることになる。しかし、本事業のように、平等に調査機会を与えられる制度は、フィールドを変更した者に対しても、研究のフレームワークを早急に固める土台作りをサポートしてくれるものとなることから、大変有用なものである。