国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

館長だより

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2016年08月04日

順益台湾原住民博物館理事長の訪問

 民博では今、企画展「台湾原住民族をめぐるイメージ」を開催している。この展示は、今春に順益台湾原住民博物館が行った特別展「学生創作ポスター展」をベースに、本館収蔵の台湾原住民族資料等をくわえて発展させたもので、野林厚志教授の企画のもと8月4日から10月4日の2か月間開催される。
 8月4日に挙行された本企画展の開幕式典には、順益台湾原住民博物館理事長の林純姫さんが参列してくださった。また台湾政府からも、台北駐日経済文化代表処顧問・台湾文化センター長の朱文清さんと在大阪弁事処文化教育課長の羅國隆さんも列席された。林理事長は初めての訪館で、民博の研究を基盤にした広範な展示をはじめとする博物館活動に強い関心を示された。
 本企画展が、民博と順益台湾原住民博物館との学術協定締結10周年を記念するポスター展であることから、民博開催に先立ち、7月22日に台北の順益台湾原住民博物館で本連携展示を祝する式典が行われた。この式典には私と野林さんも招かれ、台湾側からは林理事長、游浩己順益台湾原住民博物館長、王慧玲原住民族委員会主任、汪明輝同副主任、中華民国外交部蔡明耀大使、拉娃谷倖(Lawa Kushin)原住民族文化基金会執行長など、50名余が参列した。
 この式典では、両館長、理事長の挨拶や民博が借用するポスターと首飾りの受け渡し式も行われた。博物館関係者のほかに原住民族委員会など原住民の文化担当者も参加されたのが、これまでの順益台湾原住民博物館と民博の原住民との親密な関係を物語っている。この式典の様子は、台湾のテレビや新聞などのメディアで大きく報じられた。
 
 林純姫さんは、順益台湾原住民博物館を創設された初代理事長・林清富さんの長女で第2代理事長の任についている。彼女は東京大学文学研究科で社会心理学を学ばれ、博士の学位を取得されている。現在は、父君の自動車輸入販売会社の役員を務めながら順益台湾原住民博物館の理事長も兼務されている才媛である。
 本企画展は、台湾原住民の自然・社会・文化や神話・口頭伝承などを題材に人びとの営みや精神世界のイメージを、台湾の大学生たちが造形・表現したポスターを展示する極めて独創的な催しである。この展覧会は隔年でこれまで6回開催され、デザイン性の高い作品が数千点も制作されている。民博はその中から本年展示された作品から140点ほどの美しいポスターをお借りして企画展を開催することにした。
 民博は、順益台湾原住民博物館と2006年に学術交流協定を結び博物館事業を進めている。2009年には、民博収蔵の台湾統治時代の原住民資料の里帰り展「百年来的凝視」を順益台湾原住民博物館で開催した。このような関係の基礎は、順益台湾原住民博物館の初代理事長林清富さんの高い志しによるものである。
 林前理事長は、戦後間もなくから台湾の芸術と台湾原住民族の資料を収集してこられた。そこで、1980年代の台湾には、民間の美術館と博物館がないことから、ご自身でどちらかを創設する計画をたられた。その際、原住民の文化と歴史研究の振興とその成果の社会還元を優先し、1994年にこの順益台湾原住民博物館を創設することにしたという。
 そして、ご自身で集められたオーセンティックな原住民の文化資源をこの博物館に展示している。さらに、「社会からえたものは社会へ返す」という理念のもと、国際規模で台湾原住民研究の財政支援をしてきた。その支援の下、1994年に20名の日本人研究者たちは「日本順益台湾原住民研究会」を発足させ、機関誌『台湾原住民研究』を発刊し、今年20号を数える。
 この原住民研究会は、現在もなお日本統治期の原住民研究の埋もれた資料や未完の書物の発掘、出版および研究の総括と現在の原住民社会の研究を行うとともに、研究会で議論を重ね、数多くの成果を刊行している。
 日本の文化人類学の学問的源流は、戦前の台湾原住民研究に発するといっても過言ではない。それは、19世紀末からの鳥居龍蔵、鹿野忠雄、馬渕東一などの台湾での現地調査の方法とその資料分析による理論構築が、近代人類学を創設したことを意味する。その研究は戦後も次世代に継承され、原住民の権利復権・文化復興運動や台湾社会の民主化・自由化が進む1980年代から興隆期を迎えた。この原住民研究の活性化と進展は林清富前理事長からの継続的なご支援によるものである。
 一方、台湾政府文化部は、日本の大学や研究機関等で光点計画事業を展開している。民博もその支援をうけて研究公演やフォーラムを行ってきた。民博の野林厚志教授は一昨年に台湾映画と原住民の工芸制作の研究公演を、河合尚洋助教授は昨年に日本と台湾の客家の文化交流などについて講演会と研究公演を実施し、台湾と日本の歴史観や伝統工芸や人の交流などについて紹介している。台湾の社会と文化に関する日本の人びとの理解の一層の促進を図る台湾政府の光点計画事業に、民博がお手伝いできることを光栄に思う次第である。
 
 今後とも、民博は順益台湾原住民博物館との連携展示や学術交流を強めるとともに、台湾原住民研究に関する日本と世界の研究拠点として、台湾はじめ国内外の研究機関および研究者と交流を一層深めていくつもりである。
 

                                 


  ポスター展示の作品

  サーフィンボードに描かれた原住民イメージの作品

2016年08月04日 11:54 | 全体 新着記事