国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

巻頭コラム

World Watching from Tohoku, East Japan  2011年9月22日刊行
日高真吾

● 東日本大震災における被災文化財の救援活動

わたしは今、東京文化財研究所を本部とした「東北地方太平洋沖地震被災文化財等救援委員会」のメンバーとして東日本大震災で被災した文化財の救援活動に参加している。ここでの作業は、がれきに混入した文化財を救出し、一時保管場所へ移動、そして資料に付着した泥や砂を落とす洗浄作業というものである。

被災した文化財の救出作業は実にきつい。被災現場に立ちこめるほこりや独特の匂いに対処しなければならない。また、マスクは当然のことながら、木材の破片から突き出た釘やガラスから身を守るために、ヘルメット、長袖・長ズボンの作業服と手袋、安全靴を装着し、その暑さに耐えなければならない。被災現場では少しのけがから破傷風になってしまう危険性もあるので、暑さと戦いつつも、安全確保のためにこれらの装備はきちんと身につけなければならないのである。

わたしの場合、民俗文化財の保存を専門としていることもあって、民俗文化財の救出現場では、作業リーダーになることが多い。その場合、作業の進捗管理はもちろんのことだが、作業に参加してくれている仲間の安全確保に全神経を集中する。全国各地の博物館等から集う仲間は「何とかしなければ」という強い気持ちから、作業に没頭してしまい、水も休憩も取らずに作業を続けてしまう。そのため、熱中症が懸念されるのである。そこで、いつも一歩引いたところで仲間の様子を観察し、ころ合いを見て「休憩!」と合図を送ることもリーダーとして大事な仕事となる。自分自身も救出活動や洗浄作業に大いに参加したいという気持ちもあるので、作業リーダーの役にはちょっとした物足りなさも感じるのだが、それは我慢である。実際にはわたし以上に仲間が頑張ってくれるので、毎回、予想以上に作業は進む。

被災文化財の救援活動を通して、確かな日本人の絆を感じている。そのことが日本人として誇らしい気分にさせてくれる。少しでも被災地の復興のお役に立てるよう、いましばらく、東北地方に出かけていきたいと思う。

日高真吾(文化資源研究センター准教授)

◆関連ウェブサイト
文化財保存修復学会
国立民族学博物館|被災文化財の支援活動の事例「歴史と文化を救う」について