国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2012年1月14日(土)
今夜、列車は走る
研究領域「包摂と自律の人間学」
新展示フォーラム「たっぷりアメリカ―春のみんぱくフォーラム2012」関連 

国立民族学博物館では、2009年秋から開始した機関研究<包摂と自律の人間学>のテーマにあわせて、研究者による解説付きの上映会「みんぱくワールドシネマ」を始めました。第3期は<家族から社会を見る>をキーワードに映画上映を展開していきます。今回は「たっぷりアメリカ―春のみんぱくフォーラム2012」にあわせて、アルゼンチン映画「今夜、列車は走る」を上映します。アルゼンチン国鉄の民営化のために生活が一変する労働者と家族のドラマを通して、南米・アルゼンチンの社会の変遷を、皆さんと一緒に知っていきたいと思います。

  • 日 時:2012年1月14日(土) 13:30~16:30(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 講堂
  • 定 員:450名
    • 整理券は10:00より講堂入口にて配布いたします。
    • 整理券をご提示いただくと、アメリカ展示が新しくなった本館展示を無料でご覧いただけます。
    • 事前申込は不要です。
  • 参加料:無料
  • 主 催:国立民族学博物館
  • チラシダウンロード[PDF:3.46MB]

● みんぱくワールドシネマ 映像に描かれる<包摂と自律> ―家族から社会を見る― 第13回上映会

たっぷりアメリカ―春のみんぱくフォーラム2012 関連

「今夜、列車は走る」 / Próxima Salida
2004年/アルゼンチン映画/スペイン語/110分/日本語字幕つき
【開催日】2012年1月14日(土) 13:30~16:30(開場13:00)
【監督】ニコラス・トゥオッツォ
【出演】ダリオ・グランディネティ ウリセス・ドゥモント
【司会】鈴木紀(国立民族学博物館・先端人類科学研究部准教授)
【解説】松下洋(京都女子大学・現代社会学部教授)
「映画解説」

アカデミー賞外国語映画賞に輝いた『瞳の奥の秘密』(09)など、映画界でも注目度を増しているアルゼンチン発の、痛切な人間ドラマ。鉄道大国のアルゼンチンにも、民営化が影を落とした90年代初頭。国鉄の赤字路線が廃止された小さな町では、交渉決裂による労働組合代表の無念の自殺が、失業した仲間の鉄道員やその家族にも、様々な波紋を投げかける。弟の死を気に病む彼の兄は、鬱屈したまま職探しの日々を送り、重病の幼い息子を抱える家族想いの父親は、保険が利かなくなったために危険な仕事に就き、運転手に転じた者は、なぜか次々とトラブルに襲われる。窮乏するダンディは、昔なじみの娼婦にもやせ我慢を貫き、頑なに解雇を拒むベテラン技術者は、修理工場にこもって抗戦する。出口の見えない状況下で、それぞれに孤独な闘いを続ける5人の運命が劇的に交錯する一夜、父親の遺書を反芻する亡き職員の息子ら若者が起こした或る行動が、カオスに陥る疲弊した町に、大切な何かを呼び覚ます。 いかなる時も、誇りを胸に前進する尊さを謳うクライマックスに、長篇デビュー作にして高評価を受けた若き新鋭の、次代を担わんとする自負心が宿る意欲作だ。(服部香穂里)

財政再建と社会的排除

膨大な対外債務により破綻した国家財政と非効率な政府。規制と既得権に縛られた経済。そして軍事政権時代の粛正と人権侵害の悪夢からいまださめやらない1990年代のアルゼンチン。カルロス・メネム政権はIMF(国際通貨基金)などの外圧をうけて新自由主義政策の断行を余儀なくされた。いわゆる"小さな政府"をめざす方策である。一方、19世紀後半の牛肉輸出ブームの中で建設されたアルゼンチンの鉄道網は、すでに物流の主役の座を道路運送に譲っていた。そのため国有鉄道はただちに民営化され、その後、経営合理化のために多くの路線が廃線に追い込まれていった。『今夜、列車は走る』で描かれているのは、そうした国家財政の立て直し作業の中で、中産階級の生活から排除された人々の悪戦苦闘の姿である。彼らが自分らしい暮らしを取り戻すのは容易ではない。財政再建の痛みは誰がどのように負担すべきなのか。映画の背景にはこの難問が横たわる。これがアルゼンチンだけの問題でないことはいうまでもない。(鈴木 紀)

「包摂と自律の人間学―家族から社会を見る―」国立民族学博物館 鈴木紀

「包摂と自律」とは、社会の中で一人ひとりの存在が認知され、かつ尊重されることを意味します。だれもが自分らしく生きるためには、仲間はずれにされることなく、さりとて誰かのいいなりになるのでもない、適切なバランスが求められます。こうした状態を具体的に思い描くために、家族の姿に着目してみましょう。家族は社会から区切られた私的な空間ですが、社会の影響は家族の中にもいやおうなしに浸透し、家族の運命を揺さぶります。ある者の願いが、社会の変化や国家の制度と相いれないない時、その家族はどのようにふるまえばよいのでしょうか。映画に描かれた世界各地の家族の葛藤と、それを乗り越えるための工夫、そして他者からもたらされる支援の受け止め方を振り返ることにより、「包摂と自律」を身近な問題として考えていきましょう。

■お問い合せ先
国立民族学博物館 広報企画室企画連携係
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