国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく映画会

2019年12月22日(日)
あまねき旋律

チラシダウンロード[PDF:1.5MB]

国立民族学博物館「みんぱく映画会・みんぱくワールドシネマ」は研究者による解説付きの映画上映会です。11年目となった今期も、<人類の未来>をキーワードに映画上映を展開しています。今回は、インド北東部、ミャンマー国境付近に位置するナガランド州の農村の歌を描いたドキュメンタリー「あまねき旋律」を上映します。季節が移り変わる中、山々に広がる棚田で農作業をしながら、日々の生活や感情を歌に紡ぎながら生きていく人びとを追う映像をとおして、人間にとって歌とは何かを考えます。

  • 日 時:2019年12月22日(日)
        13:30~16:00(開場13:00)
  • 場 所:国立民族学博物館 特別展示館
  • 定 員:350名
    参加券を11:00から特別展示館入口にて配布します。事前申込は不要です。
  • 要展示観覧券(一般 580円)
  • 主 催:国立民族学博物館
 

● みんぱくワールドシネマ 映像から考える<人類の未来>
第47回上映会

あまねき旋律 Kho Ki Pa Lü / Up Down and Sideways
2017年/インド/83分/チョークリ語/ドキュメンタリー/日本語字幕付き
【開催日】2019年12月22日(土)13:30~16:00(開場13:00)
【監督】アヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール
【司会】寺田吉孝(国立民族学博物館教授)
【解説】岡田恵美(琉球大学教育学部准教授)
「映画解説」

棚田が急斜面に青々と広がるインド東北部のナガランド州にて、厳しくも雄大な自然に根差し、歌とともに生を営んできたひとたちの日常を見つめる佳篇。みんぱくワールドシネマでは初のドキュメンタリー作品となる。約5千人の住民の多くが、少人数の組に分かれて米を自給自足するペク村では、お互いを慈しみ鼓舞し合う対話のごとき歌声が、農作業の間じゅう朗々と響きわたる。音響の分野にも精通する男女の監督コンビは、インド各地のパフォーマンスをカメラに収めるべく旅する中で、歌いながら労働に励むペク村の人びとに魅了され、映画づくりを決意。骨の折れる作業も絶妙のチームワークでリズミカルにこなす村民の躍動を、長廻しでリアルに捉える一方、彼らの人生観もが歌詞に織り込まれた趣深いハーモニーを、緻密なサウンドデザインを経て再現する。今も続くインドからの独立運動の壮絶ささえ、率直に語る出演者すべてに敬愛を込めるエンドクレジットに心温まる、山形国際ドキュメンタリー映画祭で2冠に輝いた注目作だ。(映画評論家 服部香穂里)

山岳民族チャケサン・ナガ、棚田に響くポリフォニーの歌

本作は、ミャンマー国境に近いインド北東部ナガランド州の農村に息づく歌の文化を描いた作品である。登場するのは、標高1,500mのペク村で暮らすモンゴロイド系民族チャケサン・ナガの村人達である。かつては首狩の慣習もあったが、現在は1970年代以降に改宗したキリスト教徒が大半である。歴史的に見れば、1944年のインパール作戦でその村々は日本軍の進軍経路となり、戦後はインドからの分離独立闘争が激化して苦難の連続であった。だが現在の村の丘陵に広がる棚田の風景は、平穏そのものである。村人の多くは農業に従事し、田草刈りから収穫までの作業は小集団で行われる。協働作業には「Li(リ)」と呼ばれる歌が欠かせず、一人が作業のリズムに合わせて歌い始めれば、仲間達は異なる声部を重ねて呼応し、美しいハーモニーが山々に響きわたる。彼らにとって共に歌うことは疲労回復や作業の効率化以上に、仲間との連帯感や生きる上で必要な相互扶助の関係を維持する媒介として重要である。学術的見地からも、労働歌が本来の脈絡で現存する稀少な事例であり、単旋律の民謡が主流の南アジア世界において、このポリフォニー(多声的唱)の歌文化は注目に値する。(岡田恵美)

 
 
映像から考える<人類の未来>国立民族学博物館 鈴木紀

国立民族学博物館では2016年度より特別研究「現代文明と人類の未来─環境・文化・人間」を開始しました。これは、現代文明の諸課題に対して解決志向型のアプローチをとる研究です。現代文明は物質的な豊かさと普遍的な価値観を広めましたが、同時に環境破壊や文化摩擦を生み出しています。民族学や文化人類学の立場からは、現代文明の矛盾はどのように現れるのか、そしてその解決策は何かを、地域社会や民族文化に視点を据えて考えることが重要です。みんぱくワールドシネマのねらいは、この特別研究の問題意識を来館者の皆様と共有することにあります。世界の映画をとおして、現代文明を問い直し、多元的な価値が共存する人類の未来を展望したいと思います。

 

○ お問い合わせ
国立民族学博物館 企画課 博物館事業係
TEL:06-6878-8210(土日祝を除く9:00~17:00)
※手話通訳を希望される方は、11月29日(金)までにメールまたはFAXでご連絡ください。
E-mail:hjigyo★minpaku.ac.jp(★を@に置き換えて送信ください)
FAX:06-6878-8242