国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

特別展「夷酋列像 ―蝦夷地イメージをめぐる 人・物・世界―」|展示概要

展示概要

Ⅰ 夷酋列像の系譜

蠣崎波響が描いたとされる、フランスのブザンソン美術考古博物館の《夷酋列像》と函館市中央図書館所蔵の御味方蝦夷之図とともに、松平定信筆の詞書を伴う模写(国立民族学博物館所蔵)、平戸藩主松浦静山の命でつくられた模写(松浦史料博物館所蔵)、徳島藩御用絵師の渡辺広輝による模写(常楽寺所蔵)、真田家に伝来する模写(真田宝物館所蔵)などの諸本や粉本を展示し、模写の系譜や各本の特徴を紹介する。

蠣崎波響筆 夷酋列像(フランス・ブザンソン美術考古博物館所蔵)
 
伝蠣崎波響 御味方蝦夷之図(函館市中央図書館所蔵)
 

Ⅱ 夷酋列像をめぐる人

《夷酋列像》に描かれたアイヌの有力者たち、夷酋列像を描いた蠣崎波響、夷酋列像を閲覧した光格天皇や、知識人たち、評判を聞きつけて模写の制作を望んだ為政者たちと模写を命じられた絵師たちなど、「夷酋列像」の制作に関わった人々を紹介する。そして、蠣崎波響が師事した宋紫石や円山応挙、蠣崎波響と同時代の絵師である月僊や若杉五十八が描いた、中国の仙人や伝説上の人物を描いた絵や洋風画を展示する。それにより《夷酋列像》が、「異人」であると同時に味方の「功臣」であるという、相反する二つの要素を持つアイヌ像をあらわしていることを伝える。

月僊筆 東方朔図
(三重県立美術館所蔵)
蠣崎波響筆 唐美人図
(市立函館博物館所蔵)
 

Ⅲ 夷酋列像をめぐる物

《夷酋列像》に描かれた人物達は、アイヌ文様の施された衣装や、アイヌ独特の木彫りが施された煙草入や小刀に加え、蝦夷錦と称される中国から渡来した絹織物や、西洋の外套や靴など、蝦夷地を中心とした北東アジアの交流によってもたらされた品々が描かれている。これらは、和人にとって、珍しいものであると同時に高級品であり、「異人」であると同時に味方の「功臣」であるというアイヌをあらわすために蠣崎波響によって選ばれたものが描かれていると考えられる。夷酋列像に描かれた、衣装や装身具、狩猟具などの展示を通して、蝦夷地を中心とした北東アジアの交流を紹介する。

蝦夷錦(赤地蟒袍)幕
(国立歴史民俗博物館所蔵)
首飾り(市立函館博物館所蔵)
国指定重要有形民俗文化財
 

Ⅳ 夷酋列像をめぐる世界

「夷酋列像」がつくられた18-19世紀の為政者や知識人達は、蝦夷地や「異国」へ、好奇心や危機感を募らせていた。為政者たちが「夷酋列像」に関心を寄せたのは、こうした時代状況のあらわれである。こうした関心が「夷酋列像」をかたちづくっていったと同時に、「夷酋列像」が、蝦夷地や、ロシアや中国といった「異国」への関心をかたちづくっていった。知識人や為政者達が、蝦夷地や海外にどのようなまなざしを向けていたかを、のこされた絵や書物、地図を通して紹介する。

小玉貞良筆 松前屏風(松前町教育委員会所蔵) (原本)林子平筆 三国通覧図説
三国通覧之図(写本)
(国立歴史民俗博物館所蔵)