国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

開館40周年記念特別展「太陽の塔からみんぱくへ― 70年万博収集資料」|はじめに

はじめに

国立民族学博物館が所蔵する、「日本万国博覧会世界民族資料調査収集団」(「万博資料収集団」)が1968年から1969年にかけて収集した世界の諸地域の標本資料、資料収集に関連した書簡や写真等の諸資料を展示、公開し、60年代後半から70年代にかけて世界が大きく動いていく状況のなかでの民族文化や地域社会の様相を、現地における収集活動の様子やコレクションから描き出します。

当時、米ソ両国の軍拡競争はとどまるところを知らず、1965年のヴェトナム戦争をきっかけに世界は新たな秩序や価値観を模索しはじめます。また、先進国の急速な経済成長が環境に与える影響を地球規模で考える必要性が問われるようになりました。日本国内では学園紛争に代表される反権力闘争にかげりが見えはじめ、経済性が最優先される社会の意識や構造へ舵がきられた時代でもあります。そうした時代背景のもとで準備、開催されたのが、「人類の進歩と調和」をテーマとした日本でのはじめての万博である「大阪万博」でした。その展示で示された世界へのまなざしをふりかえることが本展示会の大きな目的です。

また、半世紀前という時代の変換点において行われた世界を集めるという行為、その後に計画された学術資料を保管、活用するという民族学博物館構想、かつてない量と速度で人、物、情報が動いているグローバル環境のなかで半世紀前の民族誌コレクションが現代にもつ意義をあわせて問い直す展示を構想します。そして、万博資料収集団の収集活動は、ほぼ同時期に世界の全域を対象した点においても希有なものでした。後に、国立民族学博物館という世界を展示で描く博物館に先立ち、日本の研究者たちが世界を描こうとしたはじめての営みであることもあわせてメッセージとしてこめておきたいです。

人口構造、経済構造、政治環境、すべてが前世紀と大きく異なると同時に、世界を調和させていくかと思われたグローバリゼーションに疲労しはじめている21世紀文明世界が、再び活力をとりもどすきっかけとして博覧会が果たす役割を考えるうえで、温故知新の機会を与える絶好の機会となるでしょう。