国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

アメリカ先住民ホピ(3) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年1月24日刊行
伊藤敦規(国立民族学博物館助教)

フラッグスタッフの町並み

ルイス・テワニマ記念マラソンの様子=フェイスブック「tLouis Tewanima Footrace」より
身体能力の高いホピの人々

アメリカ・アリゾナ州グランドキャニオンの最寄りの町、フラッグスタッフでは日本人をよくみかけます。ほとんどが観光客かアスリート。この町はマラソン日本女子代表選手や競泳日本代表選手の合宿先として知られています。治安・交通の便の良さ、高地砂漠気候による晴れの日の多さと昼夜の寒暖のメリハリ、そして標高2100メートルという立地が、スポーツ選手の身体能力強化に適した土地なのでしょう。

では、低酸素濃度の高地に暮らし続ける人々の身体能力はどうなのでしょうか。フラッグスタッフの人口の1割近くをしめるのが先住民で、先住民ホピの保留地(住んでいる場所)はここから150キロメートル離れた標高1800メートル地点にあります。村落の住居からがけの下の畑までの距離は、最も近くても数キロメートルはあります。移動手段は今でこそ自動車ですが、ひと昔前までは徒歩やかけ足でした。畑への移動だけではなく、長時間にわたる農作業、断食をともなう儀礼やその練習を数日間にわたってする彼らの強靱な体力にはいつもおどろかされます。

陸上競技選手としてのホピの人々の資質と身体能力は非常に高いように感じられます。100年前のことですが、ホピ出身のオリンピック選手がいました。男子陸上のアメリカ代表になったルイス・テワニマさん。1908年のロンドン大会のマラソンで9位入賞、1912年のストックホルム大会の1万メートルでは銀メダルを獲得しました。現在でもホピ高校には、クロスカントリーや中長距離競技のアメリカ上位クラスの選手が男女とも多いです。

ランナーに「ありがとう!」


住居から畑までは遠い

毎年、テワニマ選手を記念するマラソンが毎年開催されています。人々はランナーとすれ違ちがったりゴールしたりした時に「ありがとう!」と声をかけます。「走ることは、単なるスポーツや生活習慣病予防、一人の時間を楽しむことじゃないんだ。乾燥したこの地に雨雲を呼び寄せるいのりの一つなんだよ。だからランナーに感謝の意を表しているのさ」とホピの友人は説明してくれました。

 

一口メモ

「アート制作と性別」
ホピの大人の約8割は美術工芸品制作を仕事にしています。畑仕事や儀礼は男性の仕事ですが、アートにも性別による役割があり、男性は織物や木彫人形。女性は土器、かご細工などを担当します。歴史の浅い銀細工だけは性別が問われません。

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