国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

イタリア(4) 『毎日小学生新聞』掲載 2015年9月12日刊行
宇田川妙子(国立民族学博物館准教授)
広場でのコミュニケーション

男性たちが集まって話しむ、教会前の広場=ローマ近郊で

イタリアでは、どの町にも中央に教会や市役所があり、その前に広場が作られています。広場は多くの場合、周囲を家や店などに囲まれ、石畳が敷かれただけの空間です。しかし人々の生活には欠かすことのできない場所です。

男性たちは仕事が終わって帰宅すると、もう一度外出し、広場に向かいます。広場にはバールと呼ばれるカウンターだけの喫茶店があり、彼らはまずそこでコーヒーやアルコールを飲みますが、主な目的は、友人や知人と会っておしゃべりをすることです。その後、彼らは居酒屋に入り、夜おそくまで過ごすことも少なくありません。


バールでエスプレッソを作っているマスター=ローマ近郊の田舎町で

女性たちも、広場ではなく路地で、世間話をするなど、活発に近所付き合いをしています。地域社会での付き合いは家族同様、とても大切なものです。

そして日曜日、昼食後になると、広場は家族連れで散歩に出た人たちでいっぱいになります。お祭りがあれば、そこでコンサートや屋外ミサが催されたり、山車や行列が練り歩いたり、競馬などの競技が行われたりします。

生まれ育った町を愛する思い

イタリアでも地方から都会へ出ようとする動きはあります。しかし、生まれ育った町に対する人々の愛着は強く、小さな町でも観光化などを進めて町を元気にしようとする若者たちも少なくありません。その活力の土台になっているのが、こうして日ごろから広場などでつちかわれている地域社会の強いきずなでしょう。


6月の花祭り。教会前の広場からのびるメインストリートに、花びらで絵が描かれます=ローマ近郊の町、ジェンツァーノで
 

一口メモ

イタリアのコーヒーは、こくて量の少ない「エスプレッソ」が一般的です。家庭だけでなく、バールでもよく飲まれ、友人知人との社交の道具にもなっています。

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