国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

みんぱく世界の旅

インド(4) 『毎日小学生新聞』掲載 2016年8月20日刊行
松尾瑞穂(国立民族学博物館准教授)
神々と多くの化身

お祭りに現れたラーマと巨大なハヌマーン像

ヒンドゥー教の神々はさまざまな姿形に変身します。例えば、シヴァ神の妻パールヴァティーも、戦いの女神ドゥルガーも、すべて同じ女神だとされます。シヴァ神もたくさんの名前と神格があり、地域によって異なります。こうした化身(アヴァターラ)の多さは、ヒンドゥー教がインド各地に広がる間に、それぞれの地域で信仰されていた神々を取りこんでいったためだと考えられます。

 

アニメのキャラクターになったハヌマーン

ヴィシュヌ神は、魚◇イノシシ◇カメ◇ライオンの顔をした人のナラシンハ◇小人◇パラシュラーム◇ラーマ◇クリシュナ◇ブッダ◇カルキ――の10の化身となってこの世界に降臨するとされています。仏教の創始者であるブッダがこのなかにあるのは、ヒンドゥー教が仏教を取りこんだ一例なのです。

ラーマとクリシュナ

この10の化身のなかで最も人気なのがラーマとクリシュナです。ラーマはインドの古代神話「ラーマーヤナ」の主人公のラーマ王のことで、さらわれた妻シータを敵から助け出すため、サルのハヌマーンらとともに戦います。「ラーマーヤナ」はインドをこえて広く東南アジアにも広がり、各地で演劇やかげ絵、テレビドラマの題材として、今でも人気です。ハヌマーンは「西遊記」の孫悟空のモデルといわれています。


タイの首都バンコクの王宮の壁画に描かれている「ラーマーヤナ」

一方のクリシュナは、「マハーバーラタ」という神話にも登場する、だれからも愛される神様です。可愛らしい赤ちゃんの姿でえがかれることも多く、町ではクリシュナのポスターがよく売られています。

 

一口メモ

ハヌマーンは、怪力で不死身なので、インドの伝統格闘技クシュティー(レスリング)のレスラーの守護神にもなっているよ。

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