国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

移動する(8) ─駕籠(かご)─

異文化を学ぶ


日本の伝統的な乗り物に駕籠(かご)がある。牛車や御輿(みこし)から変遷した乗り物で、江戸時代におおいに普及した。

この伝統的な乗り物の変遷をみると、ある事実に気づく。現代を生きる我々は、乗り物に移動時間の短縮を求めるが、駕籠にその機能性はあまり求められていない。代わりに、使用者の象徴性を示す華やかな装飾性が求められた。その代表格が外装を黒漆塗りに金蒔絵(きんまきえ)を施し、内装に華やかな装飾画を張り込む女性専用の駕籠「女乗物」で、その装飾性は製作した大名家の家格を表すものだった。

使用者の象徴性を表象することが求められた駕籠。移動スピードの向上が重視される現代の乗り物との価値観の違いは、時代の流れではすまない何かを感じさせる。

国立民族学博物館 日高真吾
毎日新聞夕刊(2007年9月19日)に掲載