国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

移動する(9) ─言葉を超えてこそ─

異文化を学ぶ


人の移動は「地形」に多くを依存していた。「地形」によって人々は分断され、言葉や文化もそれぞれ別のものになっていったと考えられる。自然がつくった境界は「自然境」と呼ばれ、「自然境」をもとにした学問を「地政学」という。

今日、インターネットで瞬時に世界中を「移動」できるようになった。しかし、実は「言語境」によって、サイバー空間の移動は事実上、分断されている。ネット上の、七つの海ならぬ、七つ言語は、英語、中国語、スペイン語、日本語、独語、仏語、ポルトガル語。

「人々の分断が言語を分化させた時代」から、サイバー空間によって「言語が人を分ける時代」に入った。それを研究する学問を「言政学」と呼ぶ。現代における移動とは、「言語」を超えてこそ、のものなのかもしれない。

国立民族学博物館 出口正之
毎日新聞夕刊(2007年9月26日)に掲載