国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

都市(1) ─抵抗する家─

異文化を学ぶ


もう10年も前になるが、マレーシアのNGO活動家に写真を見せてもらったことがある。

写真には、ブルドーザーによって家が取り壊される様子や、あわてて家財道具を運び出す人びとの姿が写っていた。聞けば、都市再開発に反対して、居座り続けた先住民オラン・アスリの家だという。結局、彼らの土地は、少額の補償金で政府に収用された。

数年後、首都クアラルンプール近郊にあるその場所に行ってみた。そこは、高級コンドミニアムや華やかなショッピングモール、そして碁盤の目に整備された先住民の住宅地となっていた。

その片隅に1軒だけ古い家が残っていた。補償金をめぐって、裁判で係争中とのことであった。この時、私には、この古い家が開発に抵抗する象徴のように見えた。

国立民族学博物館 信田敏宏
毎日新聞夕刊(2007年10月3日)に掲載