国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

中国は今(5) ─ 知的財産権と民族文化 ─

異文化を学ぶ


商工業の立地条件で沿海部に比べて後れを取る中国西部地域では、現在、観光業が経済の牽引(けんいん)役を任されている。豊かな自然に加え、少数民族の多彩な文化があるからだ。文化大革命などの伝統の破壊や社会変化によって失われつつあった民族文化に光が当てられ、復興や保護が叫ばれている。そんな中で登場してきたのが知的財産権の問題である。

魅力的な民族文化はさまざまに商品化され、文化を継承してきた人々にではなく、資本力のある外部企業にだけ利益が流れ込むことが少なくない。地元の経済発展につながるよう民族文化の特許申請を進める動きがあるが、思わぬ難題に遭遇している。

世界遺産の雲南省・麗江(れいこう)を築いてきたナシ族は「トンパ文字」で知られる。宗教儀礼をつかさどる「トンパ」が自ら紙をすき、唱えごとを記すのに使った絵文字だ。この紙の製造技術の特許申請を目指して現地調査した研究者は、すでに国家知的財産局に4件の特許申請が出されているのに愕然(がくぜん)とした。しかも審査中の特許申請には従来の地元の製法にはない新技術が導入されていた。すでに国家級無形文化遺産に登録されているナシ族の手すき紙だが、具体的に誰が、どのような内容で特許申請するかとなると、簡単に結論は出ない。このトンパ紙やトンパ文字は3月13日からの民博特別展でじっくりご覧あれ!

国立民族学博物館 横山廣子
毎日新聞夕刊(2008年3月5日)に掲載