国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

労働と宗教(1) ─日曜はダメ?─

異文化を学ぶ


調査のために友人知人の村に連れて行ってもらうのなら問題はあまりないが、知り合いゼロの村に入りこんで、とりあえず寝場所をさがし、ついにはというより予定どおり長逗留(ながとうりゅう)する。
みなさんの普段の暮らしぶりを知りたくてやってきましたと説明しても、大人はたいてい不審な顔をする。村入りの流儀は研究者によりさまざまだろう。言葉も使えない手探り状態のとき、私は子供と遊ぶ。台湾でも、パラオでも、エチオピア、ケニアの村でもそうだった。

大人は闖入者(ちんにゅうしゃ)の意図と素性をはかりかねて、遠くから眺めている。子供は興味津々だし、用もないのに近づいてくる。自分たちの遊びに引き入れて、あれこれ教え込もうとする。道端の草花の名前を知りたがると、飽きもせず繰り返し教えてくれる。何度聞き返しても怒らない。川にどんな魚がいるのかと聞けば、今から釣りに行こうと誘う。こっちの言語能力には頓着なしに、家のこと、友達のこと、学校のことを話してくれる。

大人が浮かぬ顔して、まともに向き合ってくれない最初のころ、子供にはずいぶん助けられた。子供とケラケラ笑っていると、親たちの気持ちもなごんでくる。何しに来たのか知らないが、悪いやつではなさそうだ、と。

子供は笑顔を絶やさない、土地の文化の案内役だ。

国立民族学博物館 松園万亀雄
毎日新聞夕刊(2008年3月28日)に掲載