国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

創世神話(5) ─ 女娲―中国の創生女神─

異文化を学ぶ


女娲は天地を修復し、動物、人類と婚姻制度を作った女神とされている。『淮南子(えなんじ)』によると、神同士の激しい争いのため、天の柱がへし折れ、火災や洪水がやまず、猛獣が人を襲い食った。女娲は、五色の石で天を補修し、大亀の足で四柱に代え、黒竜の体で土地を修復し、芦草の灰で洪水を抑えたという。

10世紀の北宋に編纂(へんさん)された『太平御覧(たいへいぎょらん)』によれば、女娲はお正月の一日に鶏、二日に犬、三日に羊、四日に豚、五日に牛、六日に馬を作った。七日の日に彼女は黄土で人形を作った。その人形にふっと息がかかると、人形は体を動かし始め、声もあげたりして人間に変わった。黄土をこねて作った人間が貴人であり、数を増やすため縄で泥を跳ね上げた飛沫(ひまつ)から産まれた人間が凡庸な人であるとされている。女娲は無数の人形を作り上げ、彼らのために婚姻規則も定めた。そのため、女娲は婚姻の女神とみなされている。女娲は笙簧(しょうこう)という楽器も作ったということで、音楽の女神にも見なされている。

天地を修繕し、動物、人間、婚姻制度と楽器を作ったとされた女娲は、農耕社会に入る前の採集狩猟時代にたくましく活躍していた女性の化身であるといえよう。女娲はいまでも漢族の間で創生の女神として伝えられ、苗(ミャオ)族や侗(ドン)族の間で人類の始祖として崇拝されている。

国立民族学博物館 韓 敏
毎日新聞夕刊(2008年10月29日)に掲載