国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

伝統芸能最前線(4) ─ カンボジア影絵の映像記録 ─

異文化を学ぶ


6年前、カンボジアの大型影絵芝居スバエク・トムの全レパートリーを映像で記録した。ポル・ポト派の支配や内戦を生き抜いた一座の長老ティー・チアン師も83歳となり、芸能の将来を心配する関係者に後押しされての撮影だった。数カ月の後、師はこの世を去った。

映像は貴重な記録となったが、本当に大切なのは、それをどう活(い)かすかだろう。自ら7夜連続の上演を提案した時、師の念頭にあったのは、映像をカンボジアの若者たちに見てもらうことではなかったか。昨年11月、スバエク・トムはユネスコの無形文化遺産のリストに加えられた。これを機に、スバエク・トムに関心をもつ若い人も出てくるだろう。少しでも多くの人が映像を通して師の芸に触れることを願いたい。

国立民族学博物館 福岡正太

毎日新聞夕刊(2006年2月22日)に掲載