国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

もてなしのかたち(7) ─ イヌイットのもてなし ─

異文化を学ぶ


カナダの極北地域に住むイヌイットは、1960年ごろまで季節的な移動生活を送っていた。季節的なキャンプ集団の成員は離合集散を繰り返していた。

旅の途中で出くわす人々、キャンプを共にする人々との出会いと別れは日常のことだった。そして来るものは拒まず、去るものは追わずという原則が徹底していた。

彼らの移動生活の伝統が生み出したものが、訪問者を笑顔で迎え入れること、そして食べ物の供応であった。

今でもイヌイットの家庭を訪問すれば、満面に笑みをうかべながら迎え入れてくれ、バノクと呼ばれる無発酵パンと紅茶を出してくれる。さらに食事をすすめてくれる。厳寒の地において笑顔と食べ物は、訪問者の心と体を温めてくれる最高のもてなしだ。

国立民族学博物館 岸上伸啓
毎日新聞夕刊(2007年1月24日)に掲載