国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(5)意外性から普遍性へ  2010年6月30日刊行
広瀬浩二郎(民族文化研究部准教授)

点字プリンターで作製した土星の点図=嶺重慎氏提供

今月6日、国立天文台で開かれたユニバーサルデザイン(UD)天文教育研究会に参加した。近年、だれもが楽しめるという意味で各方面に普及したUD。本研 究会は視覚・聴覚障害者、長期入院中の子どもなど、従来の天文教育が軽視してきた少数派に注目し、宇宙や星について知る楽しみを万人が共有することをめざす取り組みだった。

研究発表では視覚障害者用の触覚教材の開発、聴覚障害者に配慮した字幕付きプラネタリウムの実践などの事例報告が続いた。主催者は「UD天文教育は特殊な人々を対象とする活動でなく、だれにもわかりやすい天文の魅力、コミュニケーション手法という観点から普遍性を生み出す試みである」と力説していた。

私の講演タイトルは「六星から満天の星へ」。六つの点の組み合わせで構成される点字を用いる視覚障害者の経験が、目に見えない宇宙の不思議を探る天文学に寄与するのではないかという私論を展開した。満天の星を思い描くためには視覚だけでなく、多様な感覚を動員することが大切である。視覚を使わない障害者の生活と視覚を超えた宇宙の広がり。意外な組み合わせから新たなUDが創造されることを願っている。

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