国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

お墓のはなし

(4)寂しい別れ  2010年8月25日刊行
三島禎子(民族社会研究部准教授)

村はずれにあるムスリムの墓
アフリカ最西端の国、セネガルでは、ときおり椅子を山積みに乗せたトラックを見かける。たいていは古びた鉄の椅子である。これらは冠婚葬祭のある家に運ばれてゆく。

椅子が家の外にまで並べられ、人びとが座っていると何かがあるのだなと思う。しかし、それが葬式かどうかは、にわかに判断し難い。人びとの正装は、黒い喪服ではない。しかもセネガルの衣装はかなり派手である。

わからないことはさらに続く。門の中にはおびただしい数の弔問客がいる。それも女性ばかりが目立つ。ただただ、いつまでともわからず座っている。故人との別れはない。そのころ、故人はすでに墓の中である。

葬儀には男性だけがモスクにおもむく。埋葬も男性だけが付き添う。白い布に包まれた遺体は、死後あっという間に埋葬されてしまう。

墓地は町や村のはずれにある。墓石には故人の名も亡くなった日も刻まれてはいない。メッカの方向を向いた頭の位置に、ヒョウタンの器が地面に被(かぶ)せてあるだけである。そもそも厳格なイスラームの教えでは、墓に執着することが禁じられている。

宗教と習慣の違いとはいえ、我々にとっては何やら寂しい永久の別れではある。
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