国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

お墓のはなし

(9)土葬と吸血鬼  2010年9月29日刊行
新免光比呂(民族文化研究部准教授)

盛られた土の下に死者が眠る
ルーマニアは吸血鬼ドラキュラの故郷として有名である。それが小説の力によるものがどうかは別にして、確かに伝承は存在する。家畜が死んだり、幽霊が現れたりするので墓を掘り起こしてみると、死者の髭がのびていた、あるいは口元には赤い血がべったりとついていたというのである。

これは東ヨーロッパに多く見られる伝承の変形である。この地域に住んでいたスラブ族は大地の聖なる力を信じ、罪を負った者は大地に拒否され、腐敗することもできないと考えた。そのため、墓地から死者が帰還するという伝承が生まれたのであろう。

それが西ヨーロッパに伝わるとローマ教皇庁が大まじめに肉体の不滅に関する議論を始めるのである。果ては大英帝国辺境からの脅威に立ち向かうイギリス紳士という構図となって小説化された。

かように土葬というものは恐ろしい結果をもたらす。とはいえ、復活を是とするキリスト教において死後の肉体の保存は必須である。近年まで西ヨーロッパ諸国では土葬が強制されていた。現在では、散骨をはじめさまざまな埋葬形態がある。だが、マイケル・ジャクソンのスリラーをはじめ、吸血鬼の魅力は消えそうにない。
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