国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

鉄路叙景

(2)自転車並み  2012年11月8日刊行
三島禎子(国立民族学博物館准教授)

ダカールの鉄道駅=筆者撮影

アフリカ最西端の国セネガルと隣国マリをつなぐ国際鉄道がある。正式名称をセネガル・ニジェール鉄道という。フランスによる植民地支配の時代に、ニジェール河とセネガルのダカール港をつなぐ物流のために建設が始まったが、ニジェールまで線路は敷設されず、ダカールから1287キロ、マリのクリコロまでが1924年に開通している。

列車は週に1便、終点まで29時間の旅だが、悪名高きこの列車が予定通りに到着したことはない。2泊3日以上を覚悟する必要がある。

列車の発着日は、駅前に市場が立ち、隣国から運ばれてくる珍しいものを手に入れることができる。ホームは乗客や見送りの人々であふれ、窓から大きな荷物を運び込んだり、屋根の上に無料の席を陣取る様子がにぎわしい。物売りも稼ぎ時である。窓から押し付けるように商品を投げ込んでゆく。

列車の運行速度は、順調に走って平均時速40キロ程度だろう。故障などで立ち往生すれば、自転車といい勝負である。実際、自転車に荷物を載せて、西アフリカ中の村から村へ移動しながら行商する商人もいるくらいである。

時刻表のない運任せの列車で、野原を突っ切る旅の楽しみを、私はいまだに先送りにしている。

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