国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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贈り物

(6)入学祝いの木彫り  2013年2月14日刊行
齋藤玲子(国立民族学博物館助教)

オンコ(イチイ)の木でできた優しい顔のクマ(高さ約18センチ)=筆者撮影

仕事で知り合った方からいただいた物のなかで、もっとも感激したひとつが、この木彫りである。2000年の夏、私は北海道アイヌ協会旭川支部長の川上哲さんと『木彫り熊(くま)源流展』を手掛けた。そのときにいろいろと教えていただいたのが、「現代の名工」をはじめ数々の受賞歴がある平塚賢智さんだった。会期を終えるころ、私は臨月に近かった。

旭川の木彫り熊は、大正末期、獲(と)り逃がしたクマを思って彫りあげたアイヌ民族の松井梅太郎が祖と言われる。小学校の帰り道、毎日のように松井の仕事場に寄り、木彫りに魅(み)せられた平塚さんは、14歳で平塚木芸舎を設立し、以来七十余年にわたり北海道の民芸品の発展に貢献された。また、平塚さんはシャモ(和人)だったが、アイヌ文化のよき理解者であり、地元の人から尊敬され、カムイノミ等の儀式にはアイヌ民族の衣装で参列した。

展示の後もおつきあいは続き、2007年の早春にご自宅でお話をうかがった際、子どもの小学校入学祝いにとかわいらしいこの熊をいただいた。たくましく成長するようにとおっしゃられ、恐縮しながらも頂戴した。2年後、平塚さんは90歳で他界した。最晩年のその作品は、私たちの宝物だ。おかげさまで息子は元気に育ち、まもなく小学校を卒業する。

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