国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

よそ者?

(8)時空を超えて  2013年12月5日刊行
ピーター・マシウス(国立民族学博物館准教授)

野生のサトイモが周囲に生えた教会=ベトナム北部のハビ山で2011年、筆者撮影

どうすれば太古の昔を訪ね、見ることができるのか。

ニュージーランドで、家族と共に丘を越えて、美しい入り江に向かって歩いたことがある。かつてそこには捕鯨基地があり、その管理人はスイセンの花を育てていた。建物はすでに朽ちているが、スイセンは健在だった。わきの小川ではサトイモが育ち、小川は太平洋に注ぎ込んでいる。人々はどうやってこの大海を渡って来たのか。私は、このサトイモのルーツを探ってオーストラリア、そしてベトナムの山岳地帯を訪ねていった。

オーストラリアの森の奥深くでは、小川に沿ってサトイモが育っている。古代の森で音と静寂に少しおびえる私は、さながら未来から来たよそ者のようであった。「これは現実なのか?」。私たちは、祖先が寝た洞窟で眠ったものだ。

ベトナムの山岳地帯の森林には、野生のサトイモが繁茂し、廃墟となったフランス統治時代の教会がある。ベトナム独立への長い戦いはその教会を破壊したが、時を経て、自然は復活した。教会の階段で花嫁と花婿が写真を撮っていた。過去からのよそ者である私は、この新しく作り出されたジャングルの中で、将来の希望に満ちた新郎新婦の姿に驚かざるをえなかった。

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