国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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(4)多様化する婚礼衣装  2014年5月1日刊行
太田心平(国立民族学博物館准教授)

新しくなった国立民族学博物館常設展示にあるドレス韓礼服=今年4月、筆者撮影

韓国の結婚式では、伝統的な婚礼衣装をレンタルして着るのが一般的だ。富裕層がホテルでおこなう結婚式や、それに準じる階層が高級な式場を借りて挙式するときには、洋式の衣装を着ることが多いが、その場合でも伝統衣装も借りて、お色直しをする。

だが他方で、ドレス韓礼服というものも登場している。伝統衣装の様式を残しながらも、西欧的な意匠をふんだんに取り入れた折衷式の衣装だ。アールデコ模様の刺繍(ししゅう)、スパンコール、ペチコートにボレロ。ここ15年ほどで社会に広まった新しい婚礼衣装である。

ソウルでこのドレス韓礼服の話をしていた時のことだった。私が「奇麗だし面白いですよね」と言ったら、韓国人の50代の会社社長は、目を丸くした。「そんなもの、着る人いません」と。

ドレス韓礼服は、雑居ビルのホールでするような、比較的安価な結婚式で着られることが多い。しかも、伝統式と洋式の両方を兼ね備えているから、お色直しにかかる経費を節約するために選ぶ人もいる。だから、ある程度お金がある階層の人たちには無縁の代物なのかもしれない。

国民の経済格差が急速に広がる韓国。同じ民族のなかでも、階層が分化するにつれ、自文化に関する常識が変わり、複数の文化が生まれている。

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